朝日の「体力」


 しかし、長期低落傾向であったとしても、もともと売り上げ規模の大きい朝日新聞は毎年、巨額のキャッシュを稼いでいる。大変残念なことに、キャッシュ・フローから見ると、朝日新聞の財務状態は未だに極めて「健全」である。

 この点を裏付けるために、キャッシュ・フロー計算書から朝日新聞の経営状態について考察するが、その前に一点、確認しておかなければならないことがある。それは、帳簿上の利益と実際の現金の出入り(キャッシュ・フロー)の差異についてだ。

 これはどの企業でも起こりうることなのだが、実際の現金の支払いと帳簿上の処理の間には避けることができない「タイムラグ」がある。それが特に顕著に表れるのが、減価償却資産と減価償却費の問題だ。朝日新聞のように印刷所や物流設備に巨額の設備投資をしている企業の場合、この点を考慮しないととんでもない見当違いをする可能性があるので注意が必要だ。

 たとえば、印刷所などに巨額の設備投資を行った場合、その年は工事代金の支払いなどで巨額の資金が流出する。しかし、同じ年の会計年度において、その巨額の資金流出はすべて損金として計上されるわけではない。なぜなら、複式簿記の原則により、設備投資を行った時点においては「現金、預金」が「機械装置及び運搬具」などに置き換わっただけだからである。印刷所の耐用年数が仮に10年だとするなら、設備投資の金額は10年かけてゆっくりと費用化されて帳簿上に反映される。

 仮に、10億円の設備投資を1億円ずつ10年かけて償却するという単純な事例を考えてみよう。設備を取得した年には帳簿上、図表3のように記帳される(単純化するために、設備は期末に完成したものとし、減価償却における残存価格はないものとする)。
<図表3>
  10億円の現金が出て行った代わりに、10億円の設備が入ってきたという考え方である。しかし、現金の流れ(キャッシュ・フロー)で見ると、この時にすでに10億円は工事代金として支払われており、手元からなくなっている。そして、翌年から減価償却が始まると、帳簿上は以下のような形で計上されることになる(図表4参照)。
<図表4>
  ここで計上されている減価償却費とは、あくまでも設備が1年間で損耗した費用であり、実際に現金が出て行ったわけではない。なぜなら、10億円の設備投資費用は取得した時点ですでに支払われているからである。そして、費用として計上されているが、実際には支払っていないキャッシュはそのまま預金として預け入れられるか、何らかの形で投資されていることになる。

 実際に朝日新聞の貸借対照表を見てみると、「機械装置及び運搬具」は2005年3月期の1260億円から2014年3月期の669億円へとほぼ半減している。その差額である約500億円が、減価償却費として計上された計算だ。もちろん、これは帳簿上の費用であり、実際にはキャッシュは手元に残っている。

 では、そのキャッシュは何に使われたのか? 有価証券報告書のなかにあるキャッシュ・フロー計算書を見ると、その使途が大まかに把握できる(図表5参照)。
<図表5>
  まず、「営業活動によるキャッシュ・フロー」に注目してほしい。朝日新聞の売上、経常利益は帳簿上で見るとたしかに右肩下がりであるが、それでも毎年200~300億円ものキャッシュが流れ込んでいるのだ。本業でプラスになったキャッシュは主に投資活動に使われている。不動産などに投資した際に代金を支払ったため、「投資活動によるキャッシュ・フロー」が2012年を除いてマイナスになっている。逆に、2012年は投資活動を抑制して帳簿上の利益を嵩上げしていた可能性もある。

 いずれにしても、会計の世界では一般的に「本業から上がってくるキャッシュが豊富にある企業は、稼いだキャッシュによって投資活動をしたり、借入金を返済したりする」といわれている。キャッシュ・フロー計算書から読み取れる数字は、朝日新聞グループはまさに「本業好調」のパターンに当てはまることを示唆している。残念ながら、朝日新聞にはまだまだ相当の「体力」が温存されているようだ。

 とはいえ、それでは腹の虫が収まらないという人も多いだろう。そこで、“巨木”朝日新聞グループを切り倒すために必要な解約数について推計してみよう。

 ヒントになるのは、2007年に805万部だった部数が2011年に778万部に減少した際に起こった経常利益とキャッシュ・フローの変化だ。部数の減少割合は約3・6%だったが、経常利益は2010年にマイナスとなり、その後、必死のリストラを経ても以前の半分までしか回復できなかった。営業キャッシュ・フローについても、2007年の307億円から、2011年の187億円へと4割減少している。

資金の流れが逆回転!


 この時はまだ約四年間の時間を要したために、2010年の大規模リストラのような対策を採る余裕があった。そのため、2011年の帳簿上のV字回復が演出できた。しかし、これと同程度の部数の減少が極めて短期間に起きた場合はどうなるだろう。たとえば、今年一年でこの事例を上回る五%程度の解約が発生した場合を仮定して、シミュレーションしてみよう。

 2007年の経常利益は140億円だったが、2010年にはマイナス42億円となり、一時的ではあるが約180億円の帳簿上の利益が吹き飛んでいる。解約率が5%になれば、2014年3月期の経常利益83・4億円は軽く吹っ飛ぶだろう。さらなるリストラに励んだとしても、前回と同じであるなら経常利益は以前の半分までしか回復しない。

 部数が5%減るごとに経常利益が半減すると考えると、3年連続の5%部数減なら経常利益は10億円以下の水準まで低下する。売上が約3000億円の朝日新聞にとって、10億円以下の経常利益というのはほとんど利益操作の範疇になってしまう。

 同様に、営業キャッシュ・フローも5%の解約ごとに半減すると仮定してみよう。3年連続5%減の暁には、現在の200億円から25億円に激減する。むしろ、こちらのほうが朝日新聞の経営に大打撃を与えるかもしれない。投資や借金返済に向かっていた資金的な余裕はなくなり、資金の流れが逆回転し始めるだろう。この時、初めて“巨木”はじわじわと浸食され始めるのだ。

毎年5%の部数減で


 スマートフォンなどの普及により、新聞よりもネットを使って情報を得る人が多数派になりつつある。今後、このトレンドはより助長されていくだろう。紙に印刷して物理的に配るという、新聞というビジネスモデルがこういった時代の流れに逆らって部数を爆発的に伸ばすことはまず考えられない。もちろん、一度失った読者を取り戻すことはほぼ不可能だ。 「従軍慰安婦」「吉田調書」という二大捏造報道によって高まった朝日新聞に対する不信により、毎年五%の部数減少を続ければ、その時点で回復不能なダメージを蒙ることは間違いない。しかも前述のとおり、朝日新聞グループの不動産賃貸事業の規模は売り上げ規模に比べると未だに小さく、新聞部門を救済するほどの力はない。仮にできるとしたら、新聞部門を閉鎖して社員のごく一部を受け入れるぐらいであろうか。

 予備校事業から撤退して不動産会社になった代々木ゼミナールにおいて、講師たちがどんな運命を辿ったのかをみれば、朝日新聞の記者たちの将来も何となく想像できるかもしれない。

 そもそも今後、部数減少に歯止めがかからなくなれば、社内では2010年を上回るリストラの嵐が吹くだろう。激しくブラック企業化する朝日新聞として、週刊誌にネタを提供し続けるといった笑えない事態が起こるかもしれない。

 そのために必要なのは、毎年5%の部数減だ。たった5%で朝日新聞という“巨木”は揺らぐ。今回の捏造報道で怒りを覚えた諸兄にはその怒りを忘れることなく、最低3年間はそれを持続していただくことを強くお勧めしたい。合言葉は「朝日の反省は廃刊」である。


 じょうねん つかさ 1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業(在学中は日本最古の弁論部、辞達学会に所属)。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年より、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶を受ける。最新刊は『《完全版》「日本ダメ論」のウソ』(イーストプレス)。

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