2019年01月30日 13:30 公開

ピーター・バーンズ、選挙・政治上級解説員、BBCニュース

イギリスの下院議員は29日、英政府と欧州連合(EU)の離脱協定をめぐる数々の修正案を審議し、ブレグジット(イギリスのEU離脱)について色々と意見を言う機会を得た。

下院は今月15日に政府とEUの離脱協定を230票という歴史的大差で否決。翌16日には内閣不信任案の投票が行われたが、メイ首相は19票差でこれを否決した。

29日の審議は政府の代替案をめぐるもので、議員たちは「合意なしブレグジット」は容認しないとする修正案を承認。しかしこの修正案に法的拘束力はなく、ブレグジット期限は3月29日のままだ。

さらに与党・保守党のサー・グレアム・ブレイディー議員が提出した、アイルランドと英・北アイルランドの国境問題をめぐる「バックストップ(防御策)」条項に関する修正案も可決された。これは、「厳格な国境検査を避けるため、代わりの取り決め」を求めるものだ。

下院採決に先立ち、メイ首相は保守党議員にこのブレイディー案を支持するよう求め、EUに協定を再交渉するよう働きかけると明言した。首相は、「法的拘束力のある変更」を求めると述べた。

これに対しEUはかねてから、離脱協定に変更の余地はないとしている。

つまり、次に何が起こるかはなお不明瞭だ。ここに、いくつかの可能性を挙げていく。

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1. 再交渉された離脱協定、あるいは現状の離脱協定の再採決

メイ首相はこれからEUに、バックストップ条項の変更を求める。

バックストップは、北アイルランドとアイルランドの国境に厳格な検問所等を設置しないための措置。離脱協定で定められているブレグジット後の移行期間が終わる2020年12月までに別の解決策が見つけられなかった場合、北アイルランドはEU単一市場の一部ルールに従うと定めている。

しかし北アイルランドがそれ以外のイギリス各地と別扱いになることが問題視されているほか、バックストップが発動すると実質的にイギリス全体がEU関税同盟にとどまることになると反発が強い。イギリスとEU双方の合意がないとバックストップから離脱できないことも、批判されている。

EUが再交渉に応じるか応じないかはさておき、議員はこの後、戻ってきた離脱協定について2度目の「意味ある投票」を行う。

もしEUが交渉に応じず、変更点のない離脱協定が審議にかけられることになった場合が問題だ。イギリスでは原則として、議員は同じ会期中に同一動議を2度審議しないことになっている。

しかし、議会の意向が変われば、このルールは適用されないという意見もある。いずれにせよ、その是非は下院議長が決めることになる。

2. 合意なしブレグジット

イギリス議会がなお離脱協定を否決し、その後に何も起こらなければ、その先に待っているのは合意なしブレグジットだ。

2019年3月29日にイギリスがEUを離脱することは既に法律に定められている。

またEUのルールでも、イギリスはこの期日に離脱することになっている。

英政府は合意なしブレグジットへの準備として何らかの法案を通そうとするかもしれないが、それは必須ではない。

多くの下院議員が合意なしブレグジットを阻止しようとするかもしれない。しかし当然ながら、そのためにやるべきことは他にある。

3. 新たな離脱協定の策定

英政府はEUに対し、新しい離脱協定を交渉したいと申し出るかもしれない。

これは、細かい修正の後に2度目の採決をするというのではなく、もっと時間をかけた一からの再交渉だ。それには、EU離脱を通告するEU基本条約(リスボン条約)50条の延長が必要になるかもしれない。

離脱延期には、2つの段階を踏む必要がある。まず、イギリスはEUに50条の延長を要請する。延長にはEU全加盟国の承認が必要だ。

次に、英政府は国内のEU離脱法に定められた「離脱日」の変更動議を議会に提出しなくてはならない。離脱日の変更には議員の採決が必要となる。

もしEUが再交渉を拒めば、英政府は他の選択肢から方針を決める必要がある。

4. 2度目の国民投票

2度目の国民投票を行うという選択肢もある。

この場合も、50条の延長が必要となるだろう。3月29日までに国民投票を行うにはすでに遅すぎるからだ。

国民投票は自動的に実施されるものではない。国民投票に関するルールは2000年の「政党、 選挙及び国民投票法」に定められている。

それによれば、国民投票の実施には新しい法律を定め、投票可能な国民の基準といったルールを決めなくてはならない。

また、国民投票の質問について選挙管理委員会が審議・助言を行う時間も必要となる。質問はその後、新法の中に明記される。

この新法が承認されても、まだ国民投票は実施されない。実際の投票の前には「国民投票期間」が設けられることになっている。

ユニバーシティー・コレッジ・ロンドンの憲法部会によると、国民投票期間は最短でも22週間必要だという。

もしこれが短縮されたとしても、3月末の離脱日を優に超えてしまうだろう。

5. 早期総選挙

メイ首相はこのこう着状態から抜け出すための最善策として、総選挙を実施し、過半数議席を取り戻すことを考えるかもしれない。

首相は自らの力だけで総選挙の実施を決めることはできないが、前回選挙のあった2017年のように、2011年議会任期固定法を適用することができる。

この場合、下院の3分の2以上が賛成する必要がある。議会での採決から選挙実施までの最短期間は25日だが、期日は首相が決めることができる。

早期総選挙となる場合もやはり、50条の延長が必要となるだろう。

6. 新たな内閣不信任案の提出

最大野党・労働党は、いつでも内閣不信任案を提出することができる。

2011年議会任期固定法によると、イギリスでは総選挙は5年に1回行われるべきだと定められている。つまり、次回総選挙は2022年だ。

しかし内閣不信任案が提出されれば、下院議員は政権を継続すべきかどうかを投票で判断する。不信任案には、「この議会は女王陛下の政権を信任していない」という文言が使われる。

過半数の議員は不信任に賛成した場合、そこから14日間のカウントダウンが始まる。

もしこの期間に現政権や別の政権が議会で信任を得られなければ、早期総選挙が行われる。

この場合も、採決から選挙実施までの最短期間は25日だ。

その他の選択肢は?

欧州司法裁判所(ECJ)は昨年12月、イギリスはEU加盟国の同意なしにブレグジットを取り消せるとの判断を下した。

メイ政権がEU離脱を実現しようとしている以上、こうした動きの前に2度目の国民投票や政権交代が行われる可能性が高い。

昨年12月に提出された党首不信任案をメイ首相が生き延びたため、保守党内では今後12カ月間、メイ氏に対する不信任動議は行われない。

ただ、離脱協定が承認されず、メイ首相が方針転換の準備をしてなければ、彼女はいつでも辞任できる。そうなれば保守党の党首選が始まり、新たな首相が誕生する。

議員から「問責決議案」が提出され、可決された場合にも、メイ首相は退任しなくてはならない。問責決議案は不信任案に似ているが、自動的に総選挙の実施とはならない。この場合も首相や政権の交代があり得る。

しかしメイ首相の後任となった人物は誰であれ、ブレグジットをめぐる上記の選択肢に直面することになる。

(英語記事 Brexit: What could happen next?