2019年01月31日 16:04 公開

アナ・ホリガン、BBCニュース、オランダ・ハーグ

「オランダより愛をこめて」。シャイアン・ウィスケルケさんは、自分たち家族が作るタマネギをそうやってアピールしてきた。

ウィスケルケさんの家は4代続く農家で、今やオランダ最大のタマネギ生産者だ。

そしてウィスケルケさんは、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)に途方に暮れている。

「こちらにできることはあまりないので。イギリスの出方待ちです」

「今の状態が続くとみんな宙ぶらりんなままで、それは事業にとっても顧客にとっても良くない」


イギリスが欧州連合(EU)の一員でいる間は、オランダの農産物は国境で何の摩擦もなくイギリスに入る。イギリスのスーパーが午前中にオランダのタマネギを注文すれば、24時間以内に販売できる。

年間で約12億ユーロ(約1500億円)分の青果物がオランダからイギリスに輸出される。英仏海峡を渡る大型トラック5万台分だ。

合意なしブレグジットになったら?

経済協力開発機構(OECD)調査によると、合意なしブレグジットとなった場合、オランダからイギリスへの輸出量は17%減る可能性がある。

英歳入税関庁(HMRC)は、初日から機能する通関制度を整備するため「十分に準備している」と話すものの、オランダからの輸入品では青果物が最も影響を受けやすい。

輸出業者は、できる限り新鮮な野菜や果物を届けるため、何もかも最短時間で動くのを前提にした態勢を作ってきた。しかし、ここに青果の健康状態の検疫や、食品の安全性、販売基準などの検査が国境で必要になれば、税関で大行列ができるかもしれない。

輸入検査は3割、輸出検査は2倍、案件が増える可能性があると予測する当局者もいる。

24時間以内に可能だった配達が、合意なしブレグジット後は2、3日かかるようになる可能性もある。

ドイツ車は行列で待たされても品質に影響はないが、オランダのトマトはそういうわけにはいかない。店頭に並べておける期間も短くなる。

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オランダの青果物生産者団体のヘルト・ムルダー代表は、「私たちが作ったトマトやキュウリが国境で腐ってしまうのではないか。そうなったら悪夢だ」と話す。

「イギリスのスーパーの在庫は3日分程度だ。保管するスペースがまったくないので、作る必要がある。しかし時間が足りない。もう注文は受けていて、作物は生長している」

「イギリスの人たちが食べ物を備蓄している話は、もちろんニュースで知っている。もしサプライチェーンが破綻すれば、棚は空っぽになる。生産業者として解決策を見つけるのが我々の仕事だ」

オランダ方式はうまくいくのか

オランダは、生鮮品の通関手続きを簡略化する「グリーンレーン」方式を発案した。

  • 貨物トラックが港に到着する前に通関検査を済ませられるようにするデジタル検査システムの導入
  • 家畜血統証明書や生産地証明などあらゆる情報はデータベースに登録
  • 英税関は貨物トラックがフェリーから降船する前に、遠隔で貨物を検査
  • 事前許可を得た車両には、税関の行列を避けられる特別な「グリーンレーン」の使用を認める

イギリスに野菜を出荷する典型的なオランダの輸出業者、マルト・ファルスタルさんにとって、この新方式は理にかなっている。


「輸出用の書類を整え、イギリス内の取引相手用には輸入用の書類を用意する。うちのトラックはグリーンレーン用の証明書を取得するので、船を降りたらそのまま取引先のところに向かう」とヴァルスタルさんは言う。

それができなければ、貨物はイギリスの港で3、4日は待たされる恐れがあり、その影響でオランダ側でも渋滞してしまうのではないかと、ヴァルスタルさんは懸念している。

技術的な準備はできている。しかし、問題がひとつ。イギリス側が合意しなくてはならないのだ。

「イギリスの閣僚にはこの話をしても、却下されてしまう」とマルダーさんはいらだちを隠さない。

「(リスボン条約)第50条が発動されてから数日の内に、我々は英環境食糧農林省と話を始めている。しかし、イギリス側の決断が必要だ。ブレグジット交渉が終らない間は、2国間交渉ができない」

英税関当局はBBCに対し、国境を超えた速やかな物流の維持は極めて重要だが、そのために国境警備の手を抜くつもりはないと話した。

オランダはほかに何を

オランダ監査裁判所によると、合意なしブレグジットによるオランダの負担は2023年までに23億ユーロ(約2875億円)に達する見通しだ。

オランダ企業のうち約3万5000社は現在、EU関税同盟の域内にしか輸出していない。イギリスが離脱すれば、これらの企業は初めて通関手続きを経験することになる。

ブレグジットに伴う手続き変更を速やかに行うため、オランダ政府は通関事務や農業検査、動物検疫の専門家を900人以上採用した。国内だけでは有資格者が足りないため、その多くは東欧出身者だ。

それでもオランダ政府は、人材確保に苦労している。

オランダ議会のブレグジット報告者、ピーター・オムツィート議員は、「訓練された専門官が約350人しかいない」と話す。

「なによりブレグジット当日に多くの専門家が必要となる。企業の多くは準備ができていないので。しかし、我々オランダが検査官数百人を必要とするなら、イギリスは数千人必要だ」

オランダにはEU最大の港、ロッテルダム港もある。

もしイギリスの輸出入手続きが渋滞すれば、世界中の貿易に影響が出る。その影響はアメリカ、中国、ロシア、ブラジルにも波及するだろう。

オランダの生産業者は、主な輸送ルートはいっぱいになり、貨物車両はフランスの港ではなくベルギーやオランダから出発することになると恐れている。

「イギリスの代わりとなる市場を、EU域内で検討している。ブルガリアやルーマニアなど」とマルダーさんは言う。

「東欧市場はイギリス市場ほど利益にならないが、選択肢を検討しているところだ」

(英語記事 Brexit: Why Dutch fear no deal will leave onions to rot