2019年02月04日 12:26 公開

日産自動車は3日、英サンダーランド工場でのスポーツ多目的車(SUV)「エクストレイル」の次期モデルの製造を撤回し、日本の九州工場に切り替えると発表した。

日産は従業員への書簡で、イギリスではブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)をめぐる不透明感が続いており、「将来の見通しを立てられない」ためと説明している。

日産はイギリスが欧州連合(EU)離脱を決めた2016年の国民投票後、同国政府から「保証」を得たとして、「エクストレイル」次期モデルの製造をサンダーランドで行うとしていた。

イギリスの労働組合は今回の発表に「失望」し、「深刻に懸念している」と話している。イギリス政府はこの決定が「自動車業界にとっての打撃」になるとしたものの、雇用に影響はないとしている。

日産は1986年にイングランド北東部サンダーランドに工場を設置。現在7000人近くの従業員を抱えている。

変化する環境

日産は今回の決定について、2016年以降、「排ガス規制の変更」など「欧州における自動車業界の環境が変わった」ことを指摘している。

イギリスでは、最新の排ガス規制基準を満たさないディーゼル車は追加課税の対象となる。またイギリスを含む欧州の多くの国で、将来的にはディーゼル車やガソリン車の販売を禁止する計画。

このため、自動車製造販売者協会(SMMT)の統計によると、イギリスでは2018年のディーゼル新車販売台数が前年比30%落ち込んだ。

欧州日産のジャンルカ・デ・フィッシ社長は、日産はかねてからエクストレイルの次期モデルは九州工場で製造する計画だったが、2年前の時点では「欧州に製造を切り替えるメリットもあった」と話した。

しかし現在は「製造拠点を増やすよりも、投資を最適化し、九州に生産を集中させる」計画だという。

その上でフィッシ社長は、「サンダーランド工場では新技術や次世代車向けパワートレインへの投資を拡大している」と説明した。

「この投資を支援するためにグローバルアセットを利用している。一方で日本ではエクストレイルの製造実績があるので、先行投資コストを削減できる」

「非常に残念」

フィッシ社長は、今回の決定にイギリスの日産従業員や関連企業は「がっかり」するだろうと認めつつ、日産はサンダーランドの従業員に「全幅の信頼を置いている」と述べた。

「エクストレイルの製造拠点を変えたのは、ビジネス上の理由による判断だったが、イギリスのEU関係の未来に不透明感が続いているため、我々のような企業は将来の計画を立てにくい」

トヨタ自動車や英ジャガー・ランドローバー(JLR)、仏グループPSA傘下のヴォクソールなど自動車各社は、合意なしブレグジットとなった場合にサプライチェーンに混乱が出ることに懸念を示している。

英ビジネス・エネルギー・産業戦略相のグレッグ・クラーク氏は、「エクストレイルの生産はサンダーランド工場の拡大と雇用促進を約束するものだった。今回の発表はこの地域と自動車業界にとって打撃だ」と話した。

「日産は人員整理は行わないと言明している。日産は現在もサンダーランド工場でキャシュカイ(日本名:デュアリス)やリーフ、ジュークを生産しており、2020年からはキャシュカイの新モデルも製造する。イギリスにおける同社の貢献を思い返そう」

英最大労組ユナイトの自動車部門代表代行、スティーヴ・ブッシュ氏は、「イングランド北東部やサンダーランドにとって非常に残念なニュースだ。イギリス全土の自動車業界が直面している困難を反映している」と述べた。

一方、保守党のEU離脱派ジェイコブ・リース=モグ議員は、金融商品取引法違反などの罪で勾留されているカルロス・ゴーン前会長(64)を引き合いに出し、「日産はブレグジットとは全く関係ない問題を抱えている」と指摘した。

最大野党・労働党のジュエレミー・コービン党首は、「保守党が交渉を台無しにし、合意なしブレグジットの恐れが高まっているせいで、見通し不透明になり、イギリス経済を痛めつけている」と批判した。

キャシュカイは、欧州で最も売れているクロスオーバー車で、サンダーランド工場での製造の大部分を占めている。

仏ルノーが日産の株式43%を握っていることから、日産がブレグジット後のEU関税を避けるため、製造拠点をフランスに移すのではとの懸念が持ち上がっている。

しかしエクストレイルの製造計画が発表された当時、日産はサンダーランドで数百人規模の新規雇用が生まれると話していた。

その際、日産はイギリス政府から「保証」を得たとしていたものの、実際に何らかの合意があったかどうかは明らかにされていない。ただ、政府高官は「金銭的な保障」は発生していないとしている。


<分析>日産の決定、その裏にある事実 ――ブ・ヤング、BBCビジネス記者

イギリスの自動車業界ではここ数カ月、悪いニュースが続いている。

JLRや米フォードが相次いで人員整理を発表したほか、今回は日産がエクストレイルにまつわるサンダーランドへの投資撤回を決めた。数年前は好景気だった自動車業界には、残念なニュースばかりだ。

こうした全てをブレグジットのせいにしたい人は多い。しかし、実はそうではないのだ。

世界最大市場の中国での自動車販売落ち込みのため、世界規模で自動車業界の不安が高まっている。欧州での販売現象と経済の悪化も同様だ。

数年前まで、各国政府はディーゼル車の新車販売を促進していた。車のオーナーもその燃費を好感していた。しかし環境への関心の高まりや排ガス不正問題を受けてその勢いは衰え、今ではディーゼル車に未来があるのかも分からない。

イギリスでは、こうしたことがブレグジットの先行き不透明感を背景に起こっている。

自動車業界は長い間、EU離脱で起こり得る貿易ルールの変化に懸念を示してきた。関税や、かんばん方式の製造に混乱をきたす税関の遅れに神経をすり減らしている。

日産は、サンダーランドでのエクストレイル製造撤回について、商業的な理由だと明言している。しかし一方で、イギリスとEUの将来の関係をめぐる「不透明感の継続」が将来の計画に「不利に働いている」とも説明した。

大企業ほど、政治からは距離を置きたがるのが普通だ。

それでも日産はあえてブレグジットを引き合いに出した。これによって、経営陣がブレグジットを懸念しているとはっきりした。


(英語記事 Nissan chooses Japan over UK for new car