高橋勝也(元都立高教諭、名古屋経済大准教授)

 学校教育法は、決して体罰を認めていない。そして刑法は、暴行を許さない。東京都立町田総合高校で今年1月、50代の男性教師が校則違反を指摘した男子生徒に挑発的な暴言を浴びせられ、殴るなどした暴行問題は、どちらにも該当することであり、絶対に許されるものではない。

 だが、今回のケースは、これからの日本の教育がどうあるべきなのか、国民的議論を積み重ね、社会全体で合意形成を導くべき事案であると強く訴えたい。自分の子供、そして、これから生まれてくる子供たちに直結する大問題であり、誰一人、他人事ではないのである。

 私は、鹿児島県や都立の中学、高校教諭を経て、現在大学で教師の卵である学生の養成に携わっている。子供たちが大好きな学生たちは、希望に満ちあふれ、勉学にいそしんでいる。私の25年間にわたる中学、高校の現場で得た知識と経験を、余すことなく彼らに授けている。子供たちは国家の宝であり、愛(いと)しく、かけがえのない存在であることを、彼らの誰一人も疑ってはいない。しかし、私は子供たちが時に凶器と化すことも教えている。

 私の教師経験は、一般的には信じられないような生活指導事案と向き合うことでもあった。かつて、こんな出来事があった。校則で禁じられた学校に携帯電話を持ち込み、授業中に使用した男子生徒に対し、教師である私は携帯電話を取り上げた。その携帯電話は、翌日、保護者が受け取りに来ないと返却されないルールもあった。

 どうしても、今すぐに友人と連絡を取りたがった男子生徒は、強い口調で返すよう訴えたが、そのルールを侵して、見逃してはならないと判断した。日ごろから問題行動を重ねる男子生徒に、今こそ厳しい指導が必要だと思ったからだ。

 これに対し、男子生徒は「てめえ(私)をブン殴って、手に持っているその携帯、取り返すぞ!」と興奮しながらこう暴言を吐いた。

 町田総合高校で起きた動画を見た私は、そのシーンを瞬時に思い起こした。私も一人の人間である。状況によっては、私も同じことをしてしまったかもしれない。だが、その時は生徒という大観衆の視線がある中、ゆるぎない毅然とした対応が必要だった。

 「もういっぺん、言ってみろ!(男子生徒の反応はなく、下を向いた)もういっぺん、言ってみろ!(まずい言い方だったと感じたのだろう。後ろを向き、逃げようとした)」。最終的には、厳しい指導を素直に受けた男子生徒は心から反省し、「あの時は本気で叱ってくれてありがとうございました」という言葉を添え、笑顔で卒業式を迎えたことを覚えている。

 教師に対してこれほどの暴言を吐く生徒がいるとは想像できない人も多いだろうが、これは作り話ではなく事実だ。他にも走馬灯のように、思い出される。

 電動車イスに興味を抱いた生徒が「それ、面白そうだから貸せ!」と障害者を引きずり降ろして遊び回った揚げ句、その障害者を放置したこともあった。「そんな生徒、ブン殴ってやらないと、まともな人間にできない」と本気で考えたこともある。これらはほんの一例だ。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 どんな非行をしても、教師にとって子供たちはかわいい存在に違いないが、時に恐ろしい存在になり得るのが現実なのだ。

 町田総合高校の教師が暴力を振るったことは許されないが、考え方は私自身と大差はないと感じている。彼は「この子たちを、どのようにして、正しく社会に送り出すか」と考え続けた教師であることに間違いはなく、そうでなければ彼を守ろうとした生徒は一人もいなかったはずだ。

 実際、彼を擁護する生徒たちは少なくなかったと聞いている。彼から温かい愛情のこもった指導を受けたことがあるからだろう。ならば、今回の問題を一人の「暴力教師」として教育委員会が処分し、管理職の教師をマスコミの前で謝罪させるような「お決まりごと」で終わらせてはならない。一個人に責任を押し付けても、問題の根本解決にはつながらない。社会全体で考えていかなければならないのである。