下條正男(拓殖大教授)

 今も「アベ政治を許さない」といったスローガンを目にすることがある。正直なところ、安倍政治のどこが問題で、何を許さないのか、はっきりしない。だが、竹島や尖閣諸島といった領土問題に関心を持つ者としては、安倍政権によって民主党政権の失政に終止符が打たれ、多少なりともモノが言える日本になったことは評価している。

 領土問題に関する民主党の失政といえば、政権を取った2009年9月からおよそ3カ月後、当時の小沢一郎幹事長らが中国に渡り、帰路に韓国で李明博(イ・ミョンバク)大統領と会談したときのことが象徴的だ。小沢氏は会談で「自分が首相になれば竹島の領有権を放棄する」と語ったとされ、12年8月に李明博大統領が竹島に上陸すると、韓国のテレビ局「チャンネルA」は、小沢氏の発言を紹介してその背景を伝え、現在のような状況になっている。

 そもそも、領土問題は国民感情を刺激するだけに、政治家も容易に近づかないが、安倍首相は今、その難問の一つである北方領土問題に挑戦しようとしている。だが、領土問題に取り組むには、戦略的な思考とタイミングがあることを忘れてはならない。

 その点で見ると、北方領土問題に臨む安倍政権の外交姿勢には危うさがある。そう感じたのは、昨年の「北方領土返還要求全国大会」だ。安倍首相と河野太郎外相の2人は、北方領土問題を父祖の遺業ととらえ、その遺志を継ぐとしていたからだ。

 国会議員は、国民の付託を受けた一個人であって、その政治活動は父祖の遺業とは関係がない。それに個人的な感情で領土交渉に臨めば、任期中に解決しようと前のめりになる。短兵急な交渉は、交渉相手からも足元を見られてしまう。

 領土問題で交渉する際は、自国に有利になる国際環境を醸成しておくことが前提となる。だが、安倍首相には、プーチン大統領との関係に信を置き、トップ会談で解決しようとの思いが強いのではないだろうか。実際、安倍首相はプーチン大統領に気を使っているのか、最近の国会論戦で、「不法占拠」「日本固有の領土」との表現を避けている。
共同記者発表を終え、退席する安倍晋三首相とプーチン大統領=2018年9月、ロシア・ウラジオストク(古厩正樹撮影)
共同記者発表を終え、退席する安倍晋三首相とプーチン大統領=2018年9月、ロシア・ウラジオストク(古厩正樹撮影)
 安倍政権になって領土問題はかなり言及されるようになったとはいえ、日本外交の稚拙さは相変わらずだ。竹島と尖閣諸島は、歴史的事実においても国際法上も日本の領土であるにもかかわらず、いまだに解決のメドが立っていない。

 竹島問題に関しては、1994年に国連海洋法条約が発効した際、日本には解決するチャンスがあった。しかし、日韓が結んだ新「日韓漁業協定」では、日本海の好漁場である「大和堆(やまとたい)」を日韓の「共同管理水域」として、大幅な譲歩をしてしまった。

 そのため、大和堆で韓国漁船が違法漁労をしても、日本側にはそれを取り締まる権限がなかったばかりか、竹島問題も解決できなかった。その大和堆には近年、北朝鮮漁船が入り込んでいる。