2019年02月08日 12:55 公開

フランス政府への抗議運動を続ける「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」のデモ参加者にイタリア副首相が面会したことを発端に、フランス政府は7日、駐イタリア大使を召還すると発表した。

フランス政府はイタリア政府首脳による「根拠のない批判と荒唐無稽な主張」に抗議し、駐イタリア大使を召還した。このような状況は第2次世界大戦が終って以来「前例がない」と反発している。

イタリアのルイジ・ディマイオ副首相は5日、マクロン仏政権の政策に反対する「ジレ・ジョーヌ」運動の幹部とパリ近くで面会し、様子をツイートした。昨年6月のイタリア総選挙でディマイオ氏率いる大衆主義の新興政党「五つ星運動」が、右翼政党「同盟」と連立政権を発足させて以来、仏伊関係は移民問題などをめぐり悪化している。

ディマイオ氏は、「ジレ・ジョーヌ」運動のクリストフ・シャランソン氏や今年5月の欧州議会選挙に出馬する予定の活動家たちと面会し、集合写真をツイートした。

https://twitter.com/luigidimaio/status/1092817232005136384


これに対して仏外務省は7日、「フランスは数カ月前から、再三の糾弾や根拠のない批判、荒唐無稽な主張にさらされてきた」とコメント。「直近の介入は、これに輪をかけた受け入れられない挑発に相当する。友好的な同盟関係にある国による民主的な選択は、尊重に値するものだが、(イタリアの)最近のこうした動きはそうした尊重を侵害している。意見の相違はさることながら、選挙目的に関係を悪用するのは別の話だ」と批判した。

これに対してディマイオ副首相は、「ジレ・ジョーヌ」参加者と面会したことに問題はないと反論しつつ、フランス国民は「友人で仲間」だと述べた。

「マクロン大統領はたびたび、欧州議会選を視野に政治的理由でイタリア政府を批判してきた。それでも、両国の友情に影響はないし、それは決して変わらない」と副首相は強調している。

こうした中、「五つ星」運動と連立する右翼「同盟」を率いるマッテオ・サルヴィーニ副首相は、エマニュエル・マクロン仏大統領と喜んで会談すると述べながら、関係を「リセット」するにはフランスが「根本的な」問題に取り組む必要があると指摘した。

サルヴィーニ氏はフランス政府に、イタリア当局が指名手配している左派過激派を引き渡し、フランスに入国する移民のイタリア送還を中止するよう求めた。さらに、両国国境でフランス側が入国審査に時間をかけるせいで国境周辺が渋滞していると問題視した。

サルヴィーニ氏は今年1月、フランス国民が「ひどい大統領から逃れられる」よう期待すると、マクロン大統領を直接批判していた。

イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は訪問先のベイルートで、両国間の対立が「直ちに解消」されることを期待するとして、「イタリアとフランスの関係は歴史に根ざすもので、何かの出来事によって疑念をもたれるようなものではない」と強調した。

事態はどれくらい深刻なのか

パリで取材するBBCのヒュー・スコフィールド特派員は、急速に悪化する仏伊関係がさらに悪化したと話す。欧州連合(EU)加盟国同士が互いの大使を召還するのは異例だ。大使召還は通常、国交断絶の一歩手前の動きとみなされる。

2016年にはギリシャが移民危機をめぐりオーストリア駐在の大使を召還した。ギリシャもイタリアもこれまで、アフリカや中東などから押し寄せる移民受け入れに他のEU加盟国が消極的過ぎると、不満をあらわにしてきた。

2017年には、オランダの駐ハンガリー大使がハンガリー政府を過激派勢力「イスラム国(IS)」になぞらえる発言をしたため、ハンガリーが大使を召還した。

対立の背景は

フランスとイタリアが対立する原因のほとんどは、移民問題だ。

地中海の移民救助船の接岸をイタリア政府が許可しないことについてフランスが批判すると、イタリアはフランスこそ移民を受け入れずイタリアに送還しているではないかと反発していた。

ディマイオ氏は今年1月、フランス政府が「たくさんのアフリカ国家の植民地化を今も止めていない」と発言。これを受けてフランス政府はパリ駐在のイタリア大使を呼びつけて説明を求めていた。

さらにサルヴィーニ氏は先月、南米ボリヴィアで逮捕されたイタリア人元左翼過激派が強制送還された際、イタリアが身柄を求めている「テロリスト」14人をフランスが送還しないと批判していた。

フランスはさらに、南東部リヨンとイタリア北部トリノを結ぶ高速鉄道の建設事業について、イタリア側の意見がまとまらないため、しびれを切らしている。

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「ジレ・ジョーヌ」とは

視認性の高い安全服の黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)を着た人たちがフランスで抗議行動を始めたのは昨年11月、マクロン政権による燃料増税に反発してのことだった。都市部を離れて暮らし、移動手段として自動車が不可欠な国民を痛めつける施策だと批判する抗議行動はフランス全土に広がり、政府は12月に増税見送りを決定した。

その後もさらに抗議行動は続き、運動は国民の購買力拡大や国民投票の実施を求めるようになった。マクロン大統領はこれを受けて、最低賃金の引き上げを公約するに至った。

こうした「黄色いベスト」運動に「五つ星」運動は連帯を示し、ディマイオ氏は「必要な支援」を提供すると述べている。


<解説> なぜこの事態に――ポール・カービー BBCニュースオンライン欧州編集長

イタリア政府では昨年夏以来、大衆主義政党のリーダー2人が副首相を務めている。その2人がこの数カ月、フランスに対して挑発的な言動を重ねてきた。フランスとしては、もうたくさんだというところだろう。

イタリア紙コリエーレ・デッラ・セラのコラムニスト、マッシモ・フランコ氏によると、イタリアの外交関係者でさえ「この言い争いに虚を突かれ」、政府幹部の姿勢にフランス側と同じくらい驚いているのだという。

フランスにしてみれば、騒ぎの原因は手に取るように明らかだ。「同盟」のサルヴィーニ氏と「五つ星」のディマイオ氏はただ単に、今年5月の欧州議会選挙に向けて選挙運動を展開しているに過ぎないと、フランスは受け止めている。

フランスの体制派に歯向かう「黄色いベスト」と、ディマイオ氏が連帯しようとするのは当然のことだ。そして右派内相のサルヴィーニ氏は、マクロン氏のライバル、極右マリーヌ・ル・ペン氏と共闘する立場だ。

イタリアの副首相2人は票をあてこんでいるのだろうが、外交上のリスクも大きい。


(英語記事 France recalls ambassador to Italy as diplomatic row deepens