女湯に入ると、「あれ? 誰もいない」。内風呂は静まり返り、水の流れる音がする。暗がりの奥の混浴露天風呂の方からは、聞き覚えのある男女の談笑する声が聞こえてきた。「私、水着持ってきてないので…」。彼女にそう打ち明けると、「そうなんですか」と素っ気ない返事。そして彼女は無言のまま、ススーッと女湯の奥へ吸い込まれるかのように進み、露天風呂へ消えて行った。

 「本気? 本当にみんな混浴してんの?」。筆者は一人、罪悪感に近い気持ちを抱えたまま内風呂に浸かり、突如襲ってきた悪寒に耐えながら適当に体が温まったところで部屋に戻った。

 「なんで露天風呂来なかったの?」。お風呂の後に始まった宴会の席でスタッフにこう聞かれた。「水着持ってなかったので」と言うと「水着なんかなくていいよー。わはははは」。その傍らでマネジャーのB氏が、引きつり笑いでお酌をして回っていたのを今でも忘れない。

 後に別のスタッフから聞いた話だが、このアニメ監督A氏率いる慰安旅行はたびたび開催されているらしく、当時の営業熱心なマネジャーB氏が「業界のお作法を学ぶために連れて行った」らしい。宴の後、「小西なんか呼ぶんじゃなかった」とB氏が必死に頭を下げている姿が目に浮ぶようである。こうして当時を振り返ると、筆者が場違いなところに出向き、その場を盛り下げてしまったことは心から反省したい。ただ、当然ながら、その後一切、こうした宴会や慰安旅行に呼ばれなくなったのは言うまでもない。

 さて、「温泉」「風呂」「混浴」というワードがいくつも登場したが、そういえば昨年、過去の国会答弁で籾井勝人・元NHK会長の後ろから文書を差し出す、通称「二人羽織」で一躍有名になったNHK佐賀放送局長が女風呂に乱入した、というニュースが報じられた。筆者が先に述べた経験は、男が乱入するという破廉恥な事件ではなかったものの、混浴露天風呂が売りの温泉宿にわざわざセッティングし、集団心理や下請け的立場の弱みに乗じて半ば強制的に混浴させられそうになった、というものである。

 監督を含む製作現場と筆者のような役者との間には直接的な雇用関係はないものの、慰安旅行はそれに近似した関係にある人たちが集まる場であり、仮に「参加は自由だ」「混浴は強制ではない」と主催者側が主張しても、これを拒否すれば「仕事がなくなる」「嫌われる」などと何らかの不利益な扱いを受けるのではないか、という不安にかられる人もいる。いや、むしろ精神的に追い詰められ、拒絶することさえままならないというケースの方が多いかもしれない。