そして、学校と児童相談所の連携が不十分だったことも大きな問題だ。心愛さんは冬休み明けの今年1月7日から小学校を欠席し、父親から学校に「沖縄の妻の実家にいるために休む」と連絡があったという。

 父親の虐待が疑われる子供に対しては、夏休みや冬休み、長期休暇後の欠席を絶対に放置してはいけない。長期休暇中は、虐待がエスカレートするリスクが非常に高いからである。

 「欠席の理由は傷やあざを隠すためかもしれない」と常に疑いの目を持つことが必要だ。子供が長期休暇明けに欠席した場合、学校は直ちに児童相談所に連絡すべきであり、児童相談所はすぐに姿を確認しなければならない。

 もし、父親から「沖縄の母方親族の所にいる」と言われたら、児童相談所は沖縄の児童相談所に心愛さんの確認を依頼すべきだった。「親族宅にいる」「親族の具合が悪い」というのは虐待加害者が子供の姿を見せないために使う常套(じょうとう)句である。その言葉を疑い、沖縄での確認、そして家庭訪問を行っていれば、心愛さんの命は助かったかもしれない。

 この事件は、児童相談所も学校も市教委も、全ての組織が父親の攻撃に屈し、言いなりになってしまったために起こった事件といえるだろう。学校や市教委にも問題はあるが、子供を虐待から守る権限は児童相談所にしかなく、その責任は重い。

 同様の事件を繰り返さないように、児童相談所の改革は必須の課題だ。特に求められるのが児童福祉司の育成だ。警察や国税専門官、家庭裁判所調査官のように、年単位の研修期間を経て、児童福祉司として児童相談所に配属されるシステムを作る必要がある。

 虐待する親の心理をはじめ、親との面接や子供からの聞き取りスキル、攻撃してくる親への対応を丹念に学ぶ。さらに、先輩福祉司の面接や訪問に同行し、失敗も成功も全て目の当たりにしながら、現場での判断の仕方を学んだ上で、現場に立つ。

 子供の命、そして家族の人生の責任を負う仕事だから、専門家としての育成は急務である。また、福祉司本人にとっても、最初の着任前に知識とスキルが身に付いていれば、負担も減るはずだ。

 また、現在の児童相談所は、子供を親から強権的に保護する役割と、親との信頼関係を築きながら子供を家に帰す役割、という矛盾する業務を行っている。しかも、この二つの役割を一人の児童福祉司が担当している。

 そこで、虐待の再発可能性を疑い続けるチームと、親との信頼関係をもとに話し合いを続けるチームを分ける。自治体によっては既に実施されている役割分担を、全国的に広げることも重要だ。

 児童相談所は子供を守るための強い権限を持っている。それでも救えない子供がいる。
2019年1月、亡くなった栗原心愛さんの自宅がある千葉県野田市内のマンション
2019年1月、亡くなった栗原心愛さんの自宅がある千葉県野田市内のマンション
 安倍晋三首相は、2019年度に児童相談所の専門職員を1千人増員して、5千人体制に拡充する方針を打ち出したが、今まで繰り返されてきた強化策ではなく、児童相談所という組織そのものの変革が必要である。何より、この事件の問題点を丁寧に検証し、幼い命を救うことができるように、全国の児童相談所で共有することが求められる。