李相哲(龍谷大教授)


 韓国の大物政治家の発言が、悪化の一途をたどる日韓関係を出口の見えない迷宮へ陥れた。今月8日、韓国国会の文喜相(ムン・ヒサン)議長がアメリカメディアの取材に「戦争犯罪の主犯の息子がおばあさん(元慰安婦)の手を取り、心より申し訳ないと言えば(慰安婦)問題は解消されるだろう」と発言した。

 さらに、「天皇謝罪」発言が問題になると、文議長は「日本の責任ある指導者が、慰安婦に対して、納得できるだけの誠意ある謝罪を行うことが優先されなければならない」という趣旨だったと釈明した。

 決着をつけたはずの慰安婦問題を持ち出し、謝罪を求めるのかという批判に対しては、「日本側は数十回謝ったと言っているが、私が見るところ、そう(被害者に誠意を込めて謝った)いったようなことはない」と反論した。しかも今のところ発言を撤回し謝罪する意向はないという。

 このような経緯から確認できるのは、文議長の発言は、歴史に対する謙虚な気持ちの欠如、日本の政治体制に対する無知、普段の日本軽視の態度がうっかり言葉になって発せられたもので本音だったということだろう。

 韓国立法府を代表する文議長の発言が憂慮されるのは、このことによって日韓関係は修復不可能な状態になる恐れがあることだ。それでも発言を撤回せず、「謝る事案ではない」と突っぱねるのはなぜなのか。

 まず挙げられるのは、韓国には過去の歴史問題について常に道徳的に日本の優位にいると錯覚する風潮が強い点だ。日本が今まで誠意のある謝罪をしてなかったからという、文議長の発言からもそのような認識がにじみ出ている。

 ご存じの人も多いと思うが、文議長が言う「日本が慰安婦問題で誠意ある謝罪をしていない」という主張は事実ではない。日本は、長い時間を費やし、官民挙げての真剣な議論を経て総理大臣の名で謝罪談話を発表した。1993年の河野洋平官房長官による「河野談話」、95年の村山富市首相による「村山談話」が代表的だ。
米ワシントンを訪れた韓国国会議長の文喜相氏=2019年2月
米ワシントンを訪れた韓国国会議長の文喜相氏=2019年2月
 村山談話を発表した後、「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)が設立され、それに日本政府は「必要な協力を行う」ことを約束し、事業資金として48億円を拠出、「医療費」名目で一人あたり300万円を支払った。さらに同基金は、国民から6億円を募金し、元慰安婦に一人あたり200万円の「償い金」を支払い、村山首相はじめ歴代首相の直筆署名入りの反省と謝罪の手紙を渡した。

 そして約50人の元慰安婦がこの「償い金」を受け取っている。それでもこの問題が収まる気配を見せなかったため、日韓両国の間で議論を重ねまとめたのが2015年の「慰安婦合意」だ。このように、日韓の間では決着のついた話を文議長がまたもや蒸し返し、今度は天皇の謝罪まで求めてきたのである。

 次に指摘しておきたいのは、韓国の根底にある、日本に対しては何をしても許されるという意識だ。これは、戦後日本が、戦前の植民支配に対する償いの気持ちもあって、韓国に対しては寛容であったことが背景にある。政財界に韓国を助けようとする人々が多数いたのだ。