2019年02月15日 16:37 公開

フィオナ・マクドナルド

日本語の中から43の語句を取り出して、英語に訳した本が出版された。欧米人にとって生き方を変えるヒントになりそうなアイデアが紹介されている。その中から特に印象的な7つを選び出した。

「私が2歳の頃、父の両親が年を取ってきたので近くで暮らそうと、家族で関西の田舎町へ引っ越した」――著者の藤本まりさんは、まえがきでこう振り返っている。

「Ikigai and Other Japanese Words to Live by」は、日本語の中から心に響く43の語句を翻訳し、座右の銘にしたい言葉として紹介した本だ。

「お盆を祖父母(2人とも当時100歳を超えていた)の家で過ごした時のことを、懐かしく思い出す」という。その体験談は単なる幼い日の思い出ではなく、世の中で主流の欧米式価値観に疑問を投げ掛ける姿勢がにじみ出ている。本の中にはそんな姿勢が何度も登場する。

藤本さんは米ニューヨーク市立大学で日本研究部門の責任者を務める。専門分野は言語学だ。よその文化が持つ独特の単語や語句と出会えば、自分自身の生き方がもっとよく理解できるようになるはずだと考えている。

藤本さんはBBCカルチャーのインタビューで、「重要なのは観点を変えてみること、ほかの生き方に目を向けることだ」と語った。

「欧米にいる私たちは、とにかく完璧を求めがち。自分は完璧でないといけない、全力投球しなければ、周りの期待に応えなければ、と絶えず感じている。でも祖父母の生き方や、伝統的な日本の暮らしに思いを巡らしてみて、私たちも立ち止まって周りを見回してはどうだろうと考えた。普段いやだと思っていること、例えば年を取るということを、受け入れてみてもいいのではないか」

紹介された多くの語句からは、穏やかさがにじみ出ている。それはどこから来るのかというと、人間の力でどうにもならない自然をそのまま受け止めることだったり、全ての出会いに敬意を払うことだったりする。

この本に短いエッセーを書いた南アフリカ出身のアーティスト、デイヴィッド・バックラーさんは、7年前から日本に住んでいる。

「日本語で話をする時、私は自分の言っている内容、しぐさや礼儀正しさを強く意識している。自分の言葉が相手にどう受け取られるかを考えて話す」

「普通の話し方とは随分違ったアプローチだ」

藤本さんの本は「調和」「感謝」あるいは「時間」など幅広い話題を取り上げているが、理屈ばかりの辞書ではない。彼女が示すのは、外国人が距離を感じてしまいがちな日本文化に足を踏み入れるための入り口だ。

例えば「渋い」は、「年月を経て出てくる美しさを思い起こさせる」表現だが、藤本さんはこう説明している。

「穏やかさを重んじる美意識の一環。色あせて輝きが弱くなった状態を指す。この言葉は私たちに、年とともに良くなるものもある、それを味わうことを忘れずに、と教えてくれる。成熟には美しさが宿り、人生経験が趣のある豊かさをもたらす。渋さは初冬の葉の色や、机に置かれた古いティーカップに感じられるかもしれない」

これは最近、一部の人たちに受けている哲学の一種だ。例えば片づけコンサルタントのの近藤麻理恵さんは、自分の持ち物に喜びを見出そうと説いてアメリカの動画配信サービス、ネットフリックスで人気を呼び、ライフスタイル・ブランドのひとつになった。その影響はチャリティーショップにも及んでいる。

また21世紀におけるマインドフルネスは、職場に向かいながら、夕食の支度をしながら、あるいはスーパーで買い物をしながら気軽に実践できる瞑想(めいそう)法を提唱している。

バックラーさんは「日本語を習うことで私はとても穏やかになった。物事に対して、自分自身のためになる向き合い方ができるようになった」と話し、一例として「物の哀れ」という語句を挙げた。美の移ろいやすさを意味する表現だ。

「簡単に言うと、移ろうものに悲しみつつ、同時に感動するということ。生と死の関係にまつわる言葉だ。日本にはとてもはっきりした四季があり、生と死、そして無常を痛感させられる。一瞬一瞬の大切さを意識するようになる」

この本を読むと、国の風土がそこで使われる言葉に及ぼす影響の大きさを改めて思い知らされる。

「日本は狭い国で、人が実際に住める土地はごく限られ、海に囲まれている」と藤本さんは指摘する。

「近代以前の日本は生活環境が厳しく(中略)人々は耐え忍ぶすべを身につけるしかなかった。自然がもたらすものを恨んでばかりいるわけにはいかない。取り乱したり逆らおうとしたりする代わりに、今あるものを受け止めて味わおうという知恵が編み出された」

藤本さんはまえがきで「作物が台風で全滅したり、大地震が起きて県内で何千人もの命が奪われたりしたこともある」と、自身の体験を振り返っている。

「そんな中で育まれたのが、自然と調和して暮らすという日本人の生き方だ。日本古来の信仰である神道はこの考え方が核になっている。(中略)そういう信念体系が発展して、今あるような日本独特の美意識が生まれた」

藤本さんは「美しさには対称性や構図、若さや活気といった基本的な要素がある」と認めた上で、こう主張する。

「私たちはそういう『プラス』の特性に引き付けられる傾向がある。反対に、醜さや不完全さ、古さや死のような特性は、西洋の世界で不快なものと見なされる。ところが日本の伝統的な美学は、自然の全てが移ろい、不変なもの、完璧なものなど何もないという、厳然たる自然の真理に基づいている。命にはその誕生から死まで、不完全な形から完璧な形まで、醜い姿から気高い姿まで、どこを取っても美しさが宿っている」

他の言語が持つ独特の単語を理解することにどれほど大きな効果があるか、この本はあらためて強調している。2つの観点を同時に持てば、世界を2通りの角度から見られるようになる。

「ギアを切り替えさえすれば、世界の美しさがもっと見えてくる」と藤本さんは言う。

「考え方や観点を少し変えるだけでいい。私たちの回りには、私たち自身が気付いていない、あるいは良さを分かっていない素晴らしいものが、実にたくさんあるのだから」

「Ikigai and Other Japanese Words to Live by(出版社・モダンブックス)」は現在発売中。

(英語記事 Seven words that can help us to be a little calmer