中村幸嗣(血液内科医、元自衛隊医官)

 競泳の池江璃花子選手が白血病と診断されたことを公表しました。世間に大きな衝撃を与えたこのニュースを、マスコミが連日取り上げています。

 ただ、番組に出演してもらえる医師が少ないせいか、専門外のコメンテーターによるいい加減な情報も飛び交っています。このような状況に、幹細胞移植を受けた経験のある腫瘍内科医、米テキサス大MDアンダーソンがんセンターの上野直人教授は「興味本位の臆測だけのコメントは困る」とフェイスブック上で憂慮しています。

 白血病が急性か慢性かなど、詳細も不明な状況で言及するのは難しく、私も一度は寄稿をためらいました。それでも、闘病に前向きな池江選手のツイートを目にし、血液内科医として改めて本稿を進めてみたいと思います。

 ただし、現時点で池江選手個人の疾患情報がなく、具体的な病状やその後の治療について全く何も言えないことは前述の通りです。ここでは、あくまで一般論として「急性白血病の治療」「治療後のアスリート復帰」「親切の押し売り」、そして「完治」に関して論じます。

 まずは、急性白血病の治療に関してです。「血液のがん」白血病は、現代では型や遺伝子ごとに、世界保健機関(WHO)により細かく分類されており、治療や予後も異なります。この違いによって、幹細胞移植や昔の骨髄移植が必要かどうかなど、最終的に決定されます。また、「急性」か「慢性」か、「骨髄性」か「リンパ性」かといった、大まかな診断は約1~2日で判明します。

 そして急性白血病では、治療メニューや薬の種類は異なりますが、骨髄性もリンパ性も、まずは大量の抗がん剤や分子標的治療薬などを使った「寛解(かんかい)導入療法」を行います。血液や骨髄中から白血病細胞を顕微鏡検査で見えなくする状態、いわゆる「完全寛解」を目指します。

 その際、抗がん剤の影響で、白血病細胞だけではなく正常の白血球も消失させるため、患者の免疫が低下してしまいます。それでも、抗がん剤や分子標的薬を使用するのは、正常細胞より白血病細胞を死滅させやすいということが、治療の上では大事だからです。肺炎を含めた感染症予防や、感染再発の場合には治療を行い、輸血により出血を防止しながら、正常細胞だけが回復するのを待ちます。一般的に、この1回の治療経過が約1~2カ月かかります。

 この時点で、白血病細胞が見た目上無くなり、正常細胞が回復してきたら、完全寛解となります。注意してほしいのは、この状態では「治癒」ではないということです。この時点で治療をやめたら、すぐ再発することが多いからです。
2019年2月、競泳の池江璃花子選手が白血病と診断されたことを報じる秋葉原駅前の街頭テレビ(川口良介撮影)
2019年2月、競泳の池江璃花子選手が白血病と診断されたことを報じる秋葉原駅前の街頭テレビ(川口良介撮影)
 寛解と判断されれば、すぐに「地固め療法」と呼ばれる抗がん剤などを用いた第2段階の治療を、白血病のタイプに応じて半年から2年掛けて数回行います。そうして、先ほど説明した完全寛解状態が5年以上続けば、ようやく完治となります。

 最近は、特定のタイプの白血病では、遺伝子検査も取り入れることで、寛解や完治の診断をしています。治療直後や再発後に幹細胞移植が行われるタイプの白血病もあり、ケース・バイ・ケースといえます。