日沖健(経営コンサルタント)

 くら寿司やセブン-イレブンなど飲食店・小売店でのアルバイト店員による不適切動画の投稿が問題になっている。

 この件について社会学者の古市憲寿氏が2月7日のフジテレビ系『とくダネ!』で、「もともとみんながやってたことを、表に出してしまったから。くら寿司もたぶん昔から、もしかしたらああいうことって従業員同士でお遊びで行われていて、それがたまたま動画になって、ネットに拡散したから、みんなが知ることになっただけだと思う」と発言し、ネットで炎上した。

 炎上の一部始終を確認したわけではないが、古市氏の発言そのものは、大いに問題だ。古市氏から「みんながやっていた」と指摘された飲食店や小売店は、どう反論できようか。過去の全店舗と全店員を調査して「うちはやっていない」と否定することは、物理的に不可能だ。古市氏の指摘には、反証可能性がないのである。

 哲学者、カール・ポパーの反証主義によると、反証可能性がない仮説、つまりどのような手段によっても間違っていることを示す方法がない仮説は、科学ではない。本業は学者の古市氏が、いくらワイドショーとはいえ、科学哲学の基本中の基本を忘れて奔放に発言しているのは、ちょっと驚きだ。

 人が何を考えようと勝手だから、反証可能性のない仮説を思い付くこと自体は何ら問題ない。しかし、まじめに働いている多くの飲食店・小売店やその社員に対し、社会的に影響力のある古市氏がメディアを使って反証可能性がない批判を一方的に浴びせるのは、もはや「言論の暴力」である。古市氏には猛省を促したい。

 ただ、そうは言っても古市氏の指摘それ自体は正しいという見方が多い。古市氏が指摘するように、悪ふざけで不適切行為をしている場合はあるだろう。あるいは、嫌になったバイト先を辞める際に腹いせでやったというケースも考えられる。

社会学者の古市憲寿氏(伴龍二撮影)
社会学者の古市憲寿氏(伴龍二撮影)
 しかし、会員制交流サイト(SNS)やユーチューブなど動画サイトは以前から存在したから、この1~2年で不適切動画が急増している状況について、「たまたま動画になって拡散した」という推測は、説得力に欠ける。ケース・バイ・ケースなのだろうが、昔から皆がやっていることを「たまたま」動画化したのではなく、多くの場合、積極的に「ぜひたくさんの人に見てほしい!」と思い立って不適切行為を働いたのではないだろうか。

 世は写真共有アプリ、インスタグラム全盛の時代だ。他人から注目され、承認されることが重視される。不適切動画を投稿すれば世間の注目を集めることができる。うまくすれば全国ニュースになるかもしれない、ニュースでは顔も名前も出ないから就職や結婚で困ることもない、厳正な処分といっても「クソなバイト先をクビになるだけ」といった思いもあるかもしれない。