黒葛原歩(弁護士)

 「沈黙は金、雄弁は銀」ということわざがある。

 雄弁に語ることも大事だが、語るべき時と語らざるべき時との区別をわきまえ、沈黙を守るべき時には沈黙するということは、それにも増して大切である、という意味である。会員制交流サイト(SNS)を利用する時には、ぜひとも心しておくべき言葉だと思う。

 SNSの投稿には反応があるので、つい反応する人のことばかりが気になってしまいがちだ。しかし、SNSの投稿はしばしば拡散し、投稿者が予想もしなかったような影響をもたらすこともある。ちょっとでも「これは言わない方がいいかな」と思ったら、何も書かずに黙っておくのがよい。筆者としても、常に心にとどめている教訓の一つである。

 さて、「不適切動画」が昨今話題となっている。

 次々に事例が出てきており、逐一紹介することはできないが、その内容はおおむね、「アルバイトが仕事中に撮影した動画をSNSに投稿し、その動画の内容が、本来の職務内容からして著しく不適切であった」というものである。

 もとより、使用者(雇用主)はアルバイトに対して、プライベートの動画を撮影させるために給料を払っているのではない。仕事中というのは、基本的にはプライベートの発信を差し控えるべき時間帯である。法的見地から見ても、こうした行動は労働契約上の義務に違反し、戒告などの懲戒処分に値するものだと言えるだろう。

 ところが、最近では不適切動画投稿の事案において、企業側が懲戒処分というレベルを超え、当該労働者に対して損害賠償まで請求するケースが出てきているという。ここまで来ると「おいおい、ちょっと待ってくれよ」と言いたくなってくる。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 そもそも、こういう場合、使用者から労働者に対する損害賠償請求というのは認められるものなのか。

 もともと判例上、使用者の労働者に対する損害賠償請求というのは、かなり厳しく制限されている。使用者は労働者を指揮命令することができ、しかも労働者の労働によって利益を得る立場にあるから、労働という活動に伴うミスから生じる危険も負担するべきだという「報償責任」という考え方が、その背景にある。