最高裁の判例(最高裁 昭和51年7月8日・茨城石炭商事事件判決)は、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被りまたは使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる」としている。

 この判例の事案では、使用者は労働者に対して、労働者の過失による車の物損事故によって生じた損害の賠償請求をしていたが、裁判所はこれを損害額の4分の1の範囲でしか認めなかった。

 従業員による加害行為が故意によるものである場合には、こうした減額がなされないケースもあるが、最高裁判例の文面上は、加害行為が故意によるか、過失によるかという点は、あくまで「加害行為の態様」の一つとして考慮されているにすぎない。

 いわゆる不適切動画の投稿についても、こういった減額がなされる余地はある。アルバイトであって賃金水準が低いことや、正社員である監督者の不在などは、減額要素として考慮される可能性があるだろう。

 また、企業側が不適切動画の投稿に伴い発生した会社の売り上げ減少とか、信用回復のために要した費用について賠償請求できるのかというのも、実はかなり微妙な問題である。筆者としては、動画投稿者がこういう損害の賠償義務を負うことは、普通は考えられず、仮にあるとしても、かなりまれなことであろうと考えている。

 売り上げ減少とか、信用回復のための費用というのは、不適切動画の拡散により、食品の衛生管理に関する消費者からの信頼を落としたことによる損害と位置付けられる。一言で言えば「信用毀損(きそん)」による損害である。この点については参考になるのは、イオン対文藝春秋事件の高裁判決である(東京高裁 平成29年11月22日判決)。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
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 これは、『週刊文春』がイオンによる弁当やおにぎりの原料米の産地偽装問題を取り上げるにあたり、雑誌の広告の中で「中国猛毒米」という表現を使用したことが信用毀損に当たるとして起こった裁判だ。イオンから株式会社文藝春秋に対し、売り上げ減少分の補塡(ほてん)や、信用回復のために行った広告の費用など、約1億6000万円の損害賠償請求がなされた。