第一審の東京地裁は、文藝春秋側に約2500万円の賠償義務があると認めた。これに対して第二審の東京高裁は、この広告の「猛毒」という部分が事実に反する信用毀損表現であることを認めたものの、損害の算定においては、わずか110万円の損害賠償しか認めなかった。

 この理由は、売り上げの減少や信用回復のための広告費用は、上記の違法な表現行為によってもたらされた損害とはいえない、と判断されたためである。売り上げの減少については、そもそも弁当やおにぎりの販売数量は、天候や休日日数といった要因によっても左右されるなどとして、表現行為によってもたらされた損害とは認められなかった。また、イオンが行った信用回復のための意見広告の費用についても、違法行為によって通常生じる損害とは認められなかった。

 この判決は、『週刊文春』という、世間で広く名の知られた雑誌について、それも電車の中づり広告などで多くの人が目にするものについて、その表現行為の違法性が「ある」とされた上での判断である。そのような事件ですら、この程度の賠償額しか認められていない。

 まして、本来的には限られた範囲にしか閲覧者がいない、インスタグラムのようなSNSの投稿動画について 、被害に遭った企業の売り上げの減少や、信用回復のための広告費のようなものまで、動画投稿行為と因果関係のある損害と認定されるものだろうか。筆者としては、裁判所において、普通はそういう判断はなされないのではないかと考えている。

 今般、不適切動画の話題が広く論じられるようになったきっかけは、アルバイトに対する賠償請求などを実際に行う旨を宣言する企業が実際に出てきているという、従前にはなかった現象がみられたのも一因だろう。

 しかし、そもそもこういう賠償請求は、実際に賠償請求を行う企業を利するものなのだろうか。
インスタグラムのアプリ(ゲッティイメージズ)
インスタグラムのアプリ(ゲッティイメージズ)
 前述したように、不適切動画の投稿に伴う損害賠償請求というのは、法的には決して簡単なものではない。また、この場合に訴えられるのは、めぼしい資産を持たない若年のアルバイトであろうから、仮に裁判で企業側が勝ったとしても、現実の回収は困難である。もちろん、そのアルバイトの親族に、賠償を肩代わりする義務があるわけでもない。

 そうすると、この種の訴訟は、費用対効果の見込めない、いわば「見せしめ」のための訴訟とならざるを得ない。