原田隆之(筑波大教授)

 俳優の新井浩文が2月1日、派遣マッサージ店の女性従業員に性的暴行をした容疑で逮捕された。有名人の性犯罪だけに、ネット上では炎上し、テレビのワイドショーは連日このニュースを取り上げた。

 しかし、ここでまず押さえておかなければならない点は、ワイドショーなどが騒ぎ立てたのは容疑の段階だったということである。その時点で「犯人」と決めつけて、過去の行状にまで遡って非難したり、人格攻撃までしたりするのは非常に問題である。

 性犯罪、特に強制性交罪のような極めて重い罪が疑われるケースでは、世間はとかく感情的になりやすい。もちろん、性犯罪は許すことのできない卑劣な犯罪であることに間違いない。とはいえ、影響力の大きなメディアが、いかにも「正義の味方」のような顔をして、容疑の段階でこぞって人々の感情を煽り立てることに何の正義があるのだろうか。

 ところで、性犯罪への刑罰は、2017年の刑法改正で大きな変化があった。たとえば、かつての「強姦罪」が「強制性交罪」へと名称が変更された。これによって、それまで「強制わいせつ罪」として処罰されていた行為(たとえば口腔性交や肛門性交)も、そこに含まれるようになり、実質的な厳罰化だといえる。

 また、強制性交罪の懲役の下限は、旧強姦罪の3年から5年に引き上げられたことで、よほどの酌むべき事情などがない限り、起訴されれば執行猶予がなく必ず実刑となることになった。

 さらに、強姦罪や強制わいせつ罪は、従来は被害者が告訴しなければ起訴されない「親告罪」であったが、それも撤廃された。被害者が声を上げにくいことに乗じた「逃げ得」ができなくなったのである。
※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
 このように、全体の傾向は、厳罰化の方向にあるものの、まだ不十分との意見も多い。たとえば、懲役の下限が引き上げられたとはいえ、強制性交罪の上限は20年、強制わいせつ罪は10年のままである(下限は6カ月)。このような犯罪は、被害者に計り知れない大きなダメージを負わせるものであるのに、それでも20年で済むのは軽すぎるという意見は、確かにその通りであると思う。

 また、多くの場合、性犯罪は密室で被害者と加害者しかいない場面で起こる事件であるため、立件や立証が難しい。ゆえに、捜査や裁判の過程で「唯一の証人」として被害者がいわゆる「セカンドレイプ」を受けることも少なくない。被害者への配慮はまだまだ不十分である。