さらに、強制性交罪が成立するには、「反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行・脅迫」が必要とされている。加害者はしばしば「合意の上だった」などと言い訳をして罪を免れようとするし、どの程度の暴行・脅迫がなされたのかは、明白な外傷などがある場合を除いて、後になってからは誰も分からなくなってしまう。

 こうしたことを考慮すれば、2017年の刑法改正をもって、これでよしとするのではなく、今後も折に触れて「罪と罰」が見合っているのかどうか、慎重に検討することが必要なことは言うまでもない。法改正に当たっても、施行3年後をメドに再検討することが盛り込まれたのはそのためである。

 とはいえ、その一方で、行き過ぎた厳罰化にも問題がある。まず、冒頭で述べたとおり、メディアやネットでの「吊し上げ」のような風潮は、放置しておくべきではない。中には、被害者まで特定されたり、あるいは逆に批判されたりすることもめずらしくはないことを考えれば、被害者、容疑者双方の人権について、われわれはもっと真剣に考慮する必要がある。

 また、厳罰化には犯罪抑制効果がないことは、多くの研究ではっきりしている。性犯罪については、全地球測位システム(GPS)の装着、居住地の公開などの対策が諸外国ではなされているが、これらの「効果」が実証された研究は1つもない。むしろ、研究知見は一致して、これらの方法には再犯抑制効果がなく、コストばかりが著しく増大することを示している。そして、言うまでもなく人権上の懸念も大きい。

 量刑を引き上げるなど、より苛酷な刑罰を科すことについても同様に再犯抑制効果は見られず、むしろわずかであるが、再犯率を上昇させることも分かっている。議論するにあたって、このような科学的知見をきちんと押さえておきたい。

 ただ、性犯罪は、われわれ社会が真剣に取り組むべき重要な問題の一つである。これには誰も異論はないだろう。しかし、その際に重要なことは、一時の怒りや不安などの感情に流されることなく、真に効果のある対策を冷静に検討することである。

 世界中で、有効な対策をめぐって議論が交わされる中で、われわれ犯罪心理学者は、その使命として、真に効果のある対策について研究を重ねている。そして、われわれが提唱しているのは、刑罰と併せて「治療」を実施することである。
※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
 たとえば、わが国では2006年に法務省が刑務所と保護観察の枠組みにおいて、「性犯罪者再犯防止プログラム」を開始し、一定の成果を上げている。

 また、われわれの研究グループは、民間の精神科クリニックにおいて性犯罪者の治療を実施し、こちらも着実な成果を上げている。治療では、認知行動療法と呼ばれる心理療法が中心であり、ケースによっては薬物療法も併用している。