治療内容は、性犯罪者の女性や性に対する「認知のゆがみ」を分析して、それを修正したり、性犯罪に至る「行動の連鎖」を解析し、それを断ち切るための具体的な対策を身に付けさせたりする。

 モチベーションがない者に対しては、それを高めるためのアプローチもある。共感性の欠如、コミュニケーションスキルの欠如、暴力的な問題解決パターンなど、彼らが有している個別的な問題性に対しても、アセスメントをしたうえで一つ一つ対処を重ねる。

 具体的な治療成果を数字で示すと、複数回の逮捕歴や再犯歴がある性犯罪者の中で、われわれの治療を受けた者の1年間の再犯率はわずか3%である。しかも、刑務所と比べるとコストは比較にならないくらい安い。刑務所で受刑者1人当たり、年400万円弱の税金がかかるのに対し、病院の治療では数十万円で済む(本人負担はその3割)。

 海外の研究に目を向けると、研究によって治療成績はまちまちであるが、相対的に見ると再犯率はおおむね30%から50%程度は抑制できることが分かっている。

 もちろん、残念ながら今のところ再犯率を0%にはできない。ゼロにするためには、死刑にするか、一生涯刑務所に閉じ込めておくしか方法はない。「だったらそうしろ」とヒステリックに叫ぶ人は多いが、現実的でない意見を感情的に叫んだとしても、それは何も言っていないに等しい。
※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
※写真はイメージ(ゲッティ・イメージズ)
 このような発言をすることは、自分の鬱憤(うっぷん)を晴らすことにしか興味がなく、性犯罪対策について真面目に考えていないことの証拠である。

 ここで紹介した「加害者臨床」には、科学で犯罪と闘うためのアプローチとして、今世界中で注目が集まっている。加えて、被害者に対する心理的なケアも併せて充実させることが重要だということは言うまでもない。

 犯罪のない未来へと少しでも前進するためにわれわれは何をすべきか、冷静に科学の声に耳を傾けてほしい。容疑者をたたくだけたたいて、1週間もすれば忘れて次のニュースを餌食にするのはもうそろそろ見直すべきではないだろうか。