以前であれば、性犯罪被害者の家にパトカーと制服警官が来ることも普通でした。男性警官が、遠慮なく事情を聞くことも当然と思われていました。

 しかし、現在は、近所に目立たないように私服警官が普通の車で来ることもできます。被害者に配慮しつつ、女性警官が事情を聞くこともできます。被害者が大人の場合で本人が希望すれば、家族にも秘密で調べを進めることもできます。届け出前の相談から、届け出後の捜査段階まで、カウンセラーなどとも連携した被害者保護の整備が進められています。このような現状を被害者に知らせることも必要でしょう。

 そうはいっても、対応はいまだに不十分であり、またどんなに配慮しても、被害者にとってはやはり負担でしょう。「社会のために」という理由だけで、被害者に協力要請することは心苦しくも思います。

 届け出を出さないことも個人の判断ですし、示談にすることも悪いことではありません。だから、警察に届け出ること、裁判に協力すること自体が、被害者にとって有益なものにしたいと思います。

 フォトジャーナリストである日本人女性が、アメリカでレイプ被害を受けました。犯人は逮捕され、有罪判決を受けましたが、彼女はもちろん激しく落ち込みます。

 しかし、彼女は立ち上がります。彼女は、フォトジャーナリストとしてレイプ被害をカミングアウトしている人々を取材します。そして、被害者らの凛々(りり)しい顔写真と共に、戦う被害者たちを一冊の本にまとめました(『STAND―立ち上がる選択』大藪順子著、いのちのことば社)。

 欧米で女性長期監禁事件が発覚すると、被害者女性は性犯罪被害者でもあるのに、顔と実名を出して記者会見を行うことがあります。欧米社会は、被害者女性を英雄として扱い、被害者は多額の保証金を得たり、手記を出版したりするなどして、新しい人生を力強く歩み始めます。被害者が隠れて生きなければならない日本とは、大きく事情が異なります。
米ペンシルベニア州で再会した父親(右)に抱きつく10年間監禁されていた女性=2006年3月(AP=共同)
米ペンシルベニア州で再会した父親(右)に抱きつく10年間監禁されていた女性=2006年3月(AP=共同)
 性犯罪被害者が警察に被害を届け出て、裁判に協力する。その勇気ある行動を社会全体が支援しなくてはなりません。支援の気持ちを表さず、犯人を起訴し罰することだけを望むのは、無責任な態度ではないでしょうか。

 内閣府の2015年の調査では、女性の6・5%が無理やり性交された経験があると回答しています。「被害者を支援しない人たちは、加害者側に加担しているのだ」とさえ語る被害者の声を、私たちは忘れてはいけないのです。