上谷さくら(弁護士)

 強制性交容疑で俳優の新井浩文容疑者が逮捕されたニュースは、世間を驚かせた。ただ、性犯罪は、不起訴処分になることが少なくない。ではなぜ、こうした状況になるのか、本稿ではその背景について考えたい。

 2018年10月以降、「ミスター慶応コンテスト」出場歴のある慶応大生らが、複数の女性に対する準強制性交容疑などで計5回逮捕されたが、横浜地検が不起訴処分にした。これについては、5回も逮捕されてなぜ不起訴なのか、性犯罪加害者に甘いのではないか、また再犯したらどうするのか、などという批判的な意見も出ている。

 しかし、性犯罪が不起訴になる理由はさまざまで、被害者を保護するためであることも多い。ここでは、強制性交罪(旧強姦罪)を例に説明する。

 まず、逮捕はしたものの、双方の言い分が全く食い違い、客観的証拠に欠けるケースがある。典型的なのは、性行為があったこと自体に争いはないが、加害者は「合意があった」と言い張るケースだ。

 全体的な状況から被害者が合意していなかったことが推認されるが、「暴行・脅迫により反抗を著しく困難にした」といえる証拠がない、という場合である。そもそも性犯罪は密室で行われることが多い。そのため、目撃者がいないのが通常で、犯行状況が防犯カメラなどに写っておらず、被害者が涙を呑むことになってしまう。

 次に、証拠がそろっていても、不起訴になる場合もある。これは、加害者が犯行を否認している場合と、認めている場合に分けて検討する。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 なお、平成29年7月の刑法改正で、性犯罪は親告罪ではなくなったため、証拠がそろっていれば検察官は起訴できるが、被害者の心情を考慮し、被害者が起訴を望まない場合にはその意思を尊重する運用がなされている。したがって、不起訴=証拠が足りなかった、というわけではない。

 加害者が犯行を否認している場合、被害者は法廷で事件の詳細について証言しなければならない。加害者がどれほど荒唐無稽な弁解をしていたとしても、その証言は避けられない。

 起訴されるまでの間に、被害者は警察にも検察にも何度も同じ話を繰り返し説明しており、被害現場に行ったり、被害状況を再現したりして、被害の再体験を強いられ、既に心身に相当なダメージを受けている。

 法廷で証言するとなると、さらに尋問に備えた準備が不可欠となる。その場合、自分の被害のことを話せばいいだけではなく、加害者の弁護人からの峻烈な、時には悪意に満ちた反対尋問にも耐える準備をしなければならない。