被害者は事件を忘れたいのに、忘れないように努力しなければならず、その狭間で苦しみ、被害回復が遅れる。もうこれ以上苦しみたくない、早く忘れたい、日常生活に戻りたい、という気持ちから、起訴を断念する場合がある。

 この過程で、被害者に代理人がついていなかったり、警察や検察、支援団体のサポートが不十分だと、十分な情報が得られずに起訴を断念してしまうこともある。

 被害者が法廷で証言する際、被害者のプライバシーを守るための制度はあるのだが、悪意ある(もしかして本当に無知なだけかもしれない)弁護人から、「法廷で証言すると、あなたは晒し者になる。名前もわかるし、興味本位の人たちがたくさん傍聴に来て、ネットに面白半分に書かれ、傷ついてしまう」などと言われ、心が折れてしまう。

 その時、弁護人の見解が誤っていることを指摘できる人が周囲にいればいいのだが、一度折れてしまった心を再度つなぐのは難しい作業であるし、やる気のない警察官や検察官が担当だと、なんのフォローもなく事件終了となってしまうこともある。

 また、加害者が否認している場合、被害者が復讐を恐れ、起訴を断念することがある。加害者が認めている場合であっても、被害者は多かれ少なかれ加害者からの逆恨みを警戒するものであるが、否認しているとなると、その恐怖感は倍増する。

 さらに、レイプの被害者は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症していることが多く、日常生活を送れないほどに症状が重いケースも少なくない。そうすると、証言自体が不可能で、起訴できない場合もある。

 心理の専門家は、被害者に証言させること自体、症状を重くしたり、いったん収まった症状が再発するので、証言などさせるべきではないという意見を述べる人が多いが、裁判上、この点に関する手当はなんらされていないのが現実である。

 次に、証拠がそろっていて加害者が犯行を認めていても不起訴になる場合について説明する。性犯罪の場合、被害者の方が誘ったのではないか、美人局(つつもたせ)ではないか、お金目当てではないか、被害者は日頃から異性関係が乱れている、服装が派手だなどの的外れな偏見が根強い。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
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 また、被害が性的なことにかかわるため、話をすること自体、とても恥ずかしい気持ちになってしまう。そのため、被害者は、被害を誰にも言えなかったり、ごく一部の人にしか打ち明けられないことがほとんどである。

 家族や恋人にも黙っているケースも多い。そうすると、いつまでも捜査や裁判にかかわっていると、いつか被害がバレるのではないか、という恐怖心がある。親に怒られる、恋人に嫌われる、婚約を破棄される、といった心配がつきまとう。このようなことは、被害者の杞憂ではなく、実際に生じていることである。