また、被害者の家族や恋人、信頼している友人らに打ち明けたものの、「早く忘れなさい」「裁判にすると嫌な目に遭うに決まっている」「奇異な目で見られるからやめて」などと反対され、味方になってくれる人がおらず、孤独感から裁判を諦める人もいる。捜査段階の取り調べ等で疲弊し、PTSDも発症し、一日も早く終わりたい、事件から解放されたいとの一心で裁判を拒絶する人もいる。

 さらに、行きずりの犯行の場合、加害者は被害者の名前を知らないのに、裁判になると起訴状に被害者の名前が記載され、加害者が被害者を特定できてしまうという問題がある。

 法律では、起訴状に被害者の名前を記載することは求められていないが、実務上、被害者名を匿名とすることはほとんど認められておらず、原則として実名である。被害者の名前が分かると、会員制交流サイト(SNS)で被害者の人間関係、生活圏などの個人情報がすぐに分かってしまうことから、加害者に復讐されたり、被害自体や個人情報を暴露されたりすることを危惧する被害者は多い。そのため、証拠も固く、被害者も刑事裁判を望んでいるのに、泣き寝入りを強いられるケースもある。

 最後に、不起訴の場合、示談が成立している場合が多いので、示談について述べる。示談というのは一般的に、加害者が被害者に対して一定額の金銭を支払い、交換条件として被害届を取り下げると思われているようであるが、必ずしもそうではない。

 賠償金を受け取るが被害届は取り下げないという示談もある。もちろん、加害者側としては賠償金と引き換えに被害届を取り下げてほしいところであろうが、被害者に多大な経済的・精神的損害を与えた以上、賠償金を支払うのは当然のことであり、刑事処分とは全く別の問題である。

 また、示談の際、「加害者を許す」という言葉を入れることにこだわる弁護人が多いが、レイプした加害者を許す人などいない。「許してもいい」という被害者がいるとしたら、事件のことで頭が混乱しているか、「許す」と言わないと賠償金を支払ってもらえないと勘違いしているかのどちらかである。本心では絶対に許したくないのに「許す」などという文言を交わし、賠償金を受け取った場合、被害者はその後ずっと苦しみ続けることになり、被害は回復しない。
※写真と本文は関係ありません(ゲッティイメージズ)
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 私は被害者に必ず、「加害者を許す気持ちがあるか」ということを確認する。これまでに「許してもいい」と言ったのは、電車内でスカートの上からお尻を触られたという痴漢被害に遭った女性一人しかいなかった。それほどに性犯罪被害の実態は残酷なのである。被害に遭ったことがなく、想像力も共感力もない人が「犯人を許すべきである」などと軽々しく言うべきではない。

 不起訴によって加害者が野放しになり、再犯の恐れが生じたとしても、それは被害者の責任ではない。性犯罪の再犯率が高いのは、服役したところで同様であり、再犯防止を考えるのは行政や政治の責任である。性被害は「魂の殺人」と言われる。被害者には、自分の回復のことだけを考えてほしい。

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