杉山崇(神奈川大人間科学部教授)
ファンの「暴走」により、スポーツ選手やアイドルが危険な思いをしたり、実際に負傷する事件が続いています。最近では、中日の松坂大輔投手がファンに腕を引っ張られるという「事件」がありました。
「事件」はファンサービスで花道を歩いている最中に起きました。松坂投手はその影響で古傷を抱える右肩を痛め、キャンプからの離脱を余儀なくされました。結局、右肩の炎症だとわかり、2週間程度はボールを投げないノースロー調整となり、万全の状態での開幕1軍は絶望的となってしまいました。
ファンは松坂投手をけがさせようと思っていたわけではないかもしれません。わざわざ時間を作って出向くわけですから、応援したい気持ちももちろんあったことでしょう。
しかし、結果としては、松坂投手と中日にとって大損害を与えることになってしまいました。ファンはなぜこのような行動を取ってしまったのでしょうか。本稿では心理学の視点から考えてみましょう。
私は、このたびのファン心理には松坂投手に対する「妙な親近感」があったのではないかと考えています。その感覚を抱いたわけには、大きく三つの心理学背景が考えられます。
まず、一つ目は「単純接触効果」です。これは、人が全般的に持っているものであり、単純に目にする機会が多いだけで親しみを覚えやすいという現象です。心理学では繰り返し確認されている効果です。

「平成の怪物」と呼ばれる松坂投手のように、高校卒業後のルーキーから20年来にわたって活躍していると、ファンにとっての親近感は絶大になっているでしょう。そして、多くの場合で、心理的な距離は物理的な距離に反映されます。熱心なファンは物理的に近づくことを自然に感じることでしょう。