ただし、親近感に畏敬の念のようなものが伴う場合は、逆に近づくことを遠慮する場合もあります。尊敬の対象であれば、心理的な距離の近さと遠慮で物理的な距離が相殺されて、程よい距離感にいたはずです。

 スポーツ選手やアスリートは私たちにはない特殊な能力があるから、選手でありアスリートなのです。本来であれば尊敬の対象になるはずですが、なぜ遠慮のない距離になってしまったのでしょうか。

 遠慮のない距離のカギを握るのが、「群集心理」とそれに伴う「匿名性」です。群集心理とは、周りの群衆の影響を受けた個人が、自らの考えや判断ではなく、安易に場の雰囲気に流されてしまう現象です。

 人は社会を作るために「同調」という能力を獲得しました。このおかげで組織だった行動が取れるのですが、場の雰囲気が正しくない方向に向かっていても、逆らえずに流されてしまうのです。

 誰かが選手を尊敬しない雰囲気を作ってしまうと、その雰囲気が場を支配します。同調の効果で心はその雰囲気に逆らえません。

 こうして、本来は尊敬しているはずの選手に対して、遠慮のない態度が作られるのです。また、群集心理では責任が群衆に分散され、自己責任を意識しなくなります。「自分」というものが隠されている「匿名性」が高い心理状態の中で、無責任な行動に出てしまいやすいのです。
2019年2月9日、集まったファンにサインする中日・松坂
2019年2月9日、集まったファンにサインする中日・松坂
 最後に、「誇大自己」の影響も考えられます。誇大自己とは「自分は素晴らしい」「自分はすごい」という錯覚です。私は「殿様錯覚」とも呼んでいます。