2019年02月22日 13:26 公開

米人気ドラマ「Empire 成功の代償」に出演している俳優、ジャシー・スモレット氏(36)が、ヘイトクライム(憎悪犯罪)の被害をでっち上げたとして逮捕された。イリノイ州シカゴの判事は21日、容疑が事実なら「とんでもなく」「卑劣だ」と述べた。

アフリカ系アメリカ人のスモレット容疑者は先月、男2人から同性愛者嫌悪的で人種差別的な暴力行為を受けたと警察に通報したことについて、虚偽通報の疑いで逮捕された。

同じく黒人のジョン・フィッツジェラルド・ライク判事は、この事件の「最も卑劣な」部分は絞首刑用の縄を持ち出したことだと述べた。

警察によると、スモレット容疑者は「自分の給料に不満を持っていた」ため、襲撃をでっち上げたという。

一方で、容疑者の弁護団は「正義追求の基礎であるはずの、推定無罪の原則がふみにじられ、スモレット氏が犠牲になった。特に、市長選挙を直前に控えて」と反論した。

「スモレット氏は高潔で誠実な若者で、自分の無罪を厳粛に主張している」という。

法廷内で何があった

米紙シカゴ・トリビューンによるとライク判事は、スモレット容疑者が襲撃犯に首に巻かれたと主張しているロープについて、「この国の歴史でひどく凶悪な部分を想起させるものだ」と非難した。

判事の発言は、南北戦争後のアメリカで何千ものアフリカ系市民が人種差別的なリンチ被害に遭ったことに言及したもの。黒人へのリンチでは特に、首をつるして殺す手口が多く使われた。

今回の事件をめぐっては、スモレット容疑者自身が襲撃を計画し、ナイジェリア人の兄弟に金銭を支払ったとされている。

警察は、スモレット容疑者を襲撃した2人が捜査に協力していると明かした。

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シカゴの捜査当局によると、スモレット容疑者は今回の襲撃計画に先立ち、米フォックスのスタジオにいる自分自身宛てに人種差別的な手紙を送りつけていたという。

保釈金は10万ドル(約1100万円)で、スモレット容疑者はその10%にあたる1万ドル(約110万円)を支払い、パスポートを提出して保釈された。

容疑者は治安びん乱行為の罪を否認している。弁護団は、「積極的に弁護していく」と述べた。

ジャック・プライア弁護士は法廷で、容疑は「スモレット氏の人柄と相容れない」と述べ、同氏は「自分の身の潔白を証明すること以外に何も望んでいない」と主張した。

有罪判決を受けた場合、スモレット容疑者は禁錮3年の実刑判決を言い渡される可能性がある。また、警察による捜査費用の支払いを命じられることも考えられる。

警察側の主張

シカゴ市警のエディ・ジョンソン本部長は21日の記者会見で、「恥ずべき」犯罪計画だと容疑者を厳しく非難した。

「いったいなぜ、とりわけアフリカ系アメリカ人男性が、虚偽の告訴をするために黒人リンチを象徴する絞首刑の縄を使うのか」

「あのシンボルにまつわる憎しみや苦しみを見て、世間の注目を高めるチャンスだと活用するなど、なぜそんなことができるのか」

ジョンソン本部長は、容疑者が「自分のキャリアアップのために人種差別の痛みと怒りを利用した」と非難した。

本部長は、容疑者がシカゴの街を裏切ったと非難し、「この売名行為はシカゴが生み出したものでもなく、シカゴにとってふさわしくない傷だ」と述べた。

さらに、「国民の注目を数週間にわたり集めた」この「でっち上げ」によって、「将来のヘイトクライムの被害者たちが、疑われるのを恐れて被害を言い出しにくくなってしまうかもしれない」と続けた。

ジョンソン本部長は、スモレット容疑者に対し「この街を汚したことを街に謝る」よう求め、「有名人やニュース解説者、さらには大統領候補たちさえも、1人の俳優が仕掛けたことを取り上げた」と怒りをあらわにした。

「私はがっくりきている。いったいなぜこんなことが」と本部長は重ね、スモレット容疑者のしたことはシカゴ市民を平手打ちして侮辱したようなものだと述べた。

騒動の経緯

自分が同性愛者だと公表しているスモレット容疑者は、1月29日の夜にシカゴ市中心部にあるサンドイッチ店「サブウェイ」に行くため外出したところ、白人男性2人に人種差別的で同性愛差別的な侮辱を浴びせられ、殴られ、なんらかの化学物質をかけられ、首にロープをかけられたと主張していた。

容疑者はさらに、この2人がドナルド・トランプ米大統領の「Make America Great Again(米国を再び偉大にしよう)」というスローガンを引き合いに、「ここはMAGAの国だ」と離していた。

これを受けて、アカデミー賞受賞者のヴァイオラ・デイヴィス氏やスーパーモデルのナオミ・キャンベル氏ら著名人から同氏を支持する声が殺到していた。

先週の米ABCの番組モーニングTVショーのインタビューで、スモレット容疑者はこの事件によって自分は「永遠に変わってしまった」と涙ながらに述べていた。

しかし、警察が確認した50台以上の監視カメラからは事件映像が見つからず、スモレット容疑者の主張へ疑念が高まっていた。目撃者も見つからなかった。

捜査官は、スモレット氏が乗車共有アプリを通して攻撃されたと証言した場所近くの監視カメラ映像に映っていた男2人を追跡し、身元を特定した。

ナイジェリア人の兄弟、オラとアベル・オサンデイロ容疑者は事件後にアメリカを出国し、先週再入国した際に48時間ほど逮捕された。警察によると、その後2人は「調査の方向を変える」情報を提供し、釈放された。

兄弟のうち1人はスモレット容疑者の個人トレーナーで、2人ともドラマ「Empire 成功の代償」にエキストラとして出演経験がある。

警察によると、2人はスモレット容疑者の署名が入った小切手を持っている。2人によると、容疑者は3500ドルを払うと同意していたという。

ジョンソン本部長は、スモレット容疑者は少なくとも兄弟の1人に対し、フォックスの給料に「不満」があると伝えていたと明かした。

米ウェブメディア、ハフィントンポストによると、ドラマ「Empire」で主要な役を演じるスモレット容疑者には、1話あたり6万5000ドル支払われていた。「Empire」の1シーズンは18話ほどで成り立っている。

訴追に先立ち米CBSシカゴは20日、ナイジェリア人の兄弟が、犯行用のフェイスマスクなどを購入する様子だとされる映像を入手した。

スモレット容疑者は21日、警察に出頭した。

ドラマを制作するフォックス・エンターテイメントと20世紀フォックス・テレビジョンは声明を発表し、「状況を精査」し「対応を検討」していると明らかにした。

(英語記事 US actor's alleged hate hoax 'despicable'