ちなみに日本における人気ぶりは、世界的に見ても突出しており、現在アメリカに次ぐ第2位の興収を上げている。なぜ『ボヘミアン・ラプソディ』は、ここまで日本人に広く受け入れられたのだろうか。

 その理由は、業界のしがらみなんぞに遠慮せず、いち早く本作を各メディアで絶賛して回った私のようなガチンコの映画批評家がいたからだ…と言いたいところだが、実際のところは、製作時のゴタゴタなど気にもせず純粋に映画の感動を口コミで広めた、心ある日本の観客たちの拡散パワーによるものだろう。

 それでも、誰もがここまでのヒットを予測していない公開前の段階で「『カメラを止めるな!』に続く社会現象的大ヒットになる」「一度はIMAXスクリーンを明け渡すが、『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』が失速するであろう冬休み明けには、再び独占上映されることになる」とまで正確に予測してメディア上で発言していたのは、日本広しといえど私1人だったわけで、この場を借りて日本における本作のメガヒットを改めて分析する資格くらいはあるだろう。

 まず、純粋に作品の出来が良かったのはもちろんだが、それ以外の要素となると、木村拓哉主演『プライド』をはじめとするテレビドラマや、CMなどに絶えず楽曲が使われ続けたおかげで、リアルタイムのクイーンファンである中高年より若い世代にバンドの知名度が受け継がれていたことが大きい。

 「Let It Go」をロング予告編で日本中に流しまくり、脳内でリフレインさせる宣伝戦略で成功した『アナ雪』が証明したように、「音楽映画は事前に劇中曲を可能な限り拡散しておく」のは、今や映画宣伝における鉄則。なにしろ音楽映画やミュージカル映画は、「初見の曲」ではなかなか盛り上がれない。

 人々は「お気に入りの曲」を音響設備が整った劇場で、大勢の人々とともに「体験」したいものだ。そして、ひとたび心地よい鑑賞「体験」ができれば、彼らは一般劇場からIMAX、応援上映とリピートしてくれる。大事なのは、人々は「体験」には、何度でも追加料金を支払ってくれるということだ。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』の一場面=(C) 2018 Twentieth Century FoxFox
映画『ボヘミアン・ラプソディ』の一場面=(C) 2018 Twentieth Century Fox
 「体験」にこだわるこの流れこそが、通常レベルのヒットの壁を突き抜ける原動力となる。そして、主だった曲が既に日本人の脳内の「お気に入り」フォルダに入っているクイーンの場合は、労せずしてそのための最初のハードルを越えていた。

 特に本作は、ヒット曲を多少聞いたことがある程度のライトなファンをこそ、メインターゲットとして作ってある。言い換えれば、浮動票を持つ観客にジャストフィットしたつくり。だから、コアなファン以上に彼らがリピーターになった日本市場における流れは、製作者にとってはまさにしてやったり、コンセプトの勝利といえるだろう。