殺人、横領、麻薬……
火山地帯に位置し、地震や津波、噴火が起こる北方領土の自然条件は過酷だ。「赤い灯台」によれば、オホーツク沿岸の散布山で昨年8月、火山活動の活発化で「異例の強力な噴火」があり、周辺の住宅に被害があったほか、児童を恐怖に陥れたという。同紙は「火山と地震活動が活動期に入った」と警告した。
島は天候も急変し、日照時間が短く、強風が吹く。昨年の正月前後は暴風雪が続き、国後島では恒例の新年祝賀祭が延期された。2月には秒速35メートルの暴風と豪雪で非常事態が宣言された。これに伴って変電所が閉鎖され、停電が起きた。
悪天候に伴う事故も少なくない。2月には、国後島沖500メートルで拘束された外国船舶の検査に向かっていた国境警備隊のゴムボートが高波で転覆し、隊員ら5人が死亡、5人が行方不明となった。13年末にも、国後沖でゴムボートに乗っていた男性2人が行方不明となった。
北方領土では火災も多い。12年12月、32戸の2階建て集合住宅の入り口付近で火災があり、2階の一部が消失。年金生活者ら2人が死亡し、1人が重傷となった。電気のショートが原因で、強風のために消火作業は難航したという。国後島の古釜布でも同時期に集合住宅で火災があり、4戸が焼けた。犠牲者はなかったが、焼け出された住民は日本が建てた「友好の家」で一時的に過ごしたという。

「国境で」は、今年も色丹島で火災が頻発しており、6月には建設中の集合住宅が深夜、火災で全焼し、入居予定者にショックを与えたと伝えている。
両紙は、島で起きた事件や犯罪も報道する。12年11月、択捉のロシア軍基地で兵士が同僚をスコップで殴り殺す事件があった。徴兵で配属されたばかりの新兵が、近く退役する兵士と口論になってスコップで何度も殴りつけて殺害し、軍検察官に拘束されたという。
択捉島の太平洋岸・天寧にあるロシア軍基地には冷戦時代、1万人以上の師団が駐留していたが、現在は3000人程度。「赤い灯台」は「基地の将兵はいつも酒に酔っ払っている」との地元住民の話を伝えたが、冷戦も終わり、部隊は暇を持て余しているようだ。
9月には、択捉島のクリルカ川中流でサケの密漁を監視していた警備組織スタッフが猟銃で撃たれて負傷し、紗那の病院に運ばれた。警察は3人の容疑者を拘束。3人は容疑を認めたという。
殺人、脅迫、酔っ払いの喧嘩、交通違反、住居不法侵入、強盗といった事件も報道されている。択捉島では、麻薬吸引者が増加していることも分かった。両紙は「島の犯罪発生率はロシア平均より低い」としているが、治安がいいとは言えない。
択捉島の最高指導者、アベニャン地区長が13年6月、公金横領のため、裁判所によって解任されたことも分かった。実際に存在しない建物の取り壊しに入札を公示し、1000万ルーブル(約3000万円)を着服していたという。
国後島でも水道・衛生事業で、本土の請負企業が飲料水貯蔵施設を実際には建設せずに700万ルーブル(約2100万円)を横領していたことが発覚した。国後島の軍駐屯部隊では、食堂の主任をしていた女性が架空の職員に給与を払い込み、8万ルーブル(約24万円)を着服したとして摘発された。これらは氷山の一角とみられ、膨大な開発予算が幹部の汚職・腐敗に消えている可能性がある。
島にはエンタテイメントが少ないが、13年、国後島では空手クラブが設立され、男女児童45人がロシア人コーチの指導で練習している。10月にサハリンで行われた極東連邦管区の空手大会には18人が参加し、各部門別で計6個のメダルを獲得したという。島のグリークラブ、本土からたまに来る歌手のミニコンサートも数少ない娯楽のようだ。
両紙がキャンペーン的に訴えているのが環境問題だ。あちこちにできたゴミの山の写真が再三掲載され、「ゴミが美しい景観を台無しにする」と批判する。ゴミ処理施設がないため、粗大ゴミが町外れに放置されてしまう。
「国境で」は、国後島の古釜布に設置された津波避難階段兼展望台が空き缶や空き瓶でゴミだらけになっている写真を掲載した。ロシア人は公共衛生意識が希薄だが、他人の島という意識もあるかもしれない。国後、択捉では軍の演習も定期的に実施されて環境破壊に繋がる。返還後はまず、汚された島の環境整備から始める必要がありそうだ。
曲がり角のビザなし交流
両紙には海外やロシア本土の情報はほとんど載らないが、昨春のウクライナ情勢は通信社の報道をしばしば転載した。3月17日には、国後島古釜布の中央広場で「クリミアとウクライナ東部のロシア系住民支援集会」が行われ、「南クリル住民はプーチン大統領の政策を支持する」との決議を採択した。同様の官製集会はロシア各地で開かれているが、島でも民族愛国主義が高まった模様だ。
国際問題では、隣国・日本に絡む記事が圧倒的に多い。「国境で」によれば9月2日、第二次世界大戦終結69周年祝賀式典が古釜布の戦勝記念碑前で盛大に行われ、ソロムコ地区長や国後島駐留軍らが参加した。式典は択捉、色丹両島でも行われた。四島にとって「対日戦勝」は自らの存在意義であり、島を挙げての祝賀となるのだろう。
同紙は関連原稿で、千島列島がソ連軍によって占領された経緯を紹介し、「ソ連軍上陸部隊は9月1日に国後に到着。同日、色丹も占領した。2日から歯舞諸島の占領に着手し、4日に完了した」などと伝えた。慎重に読めば、歯舞占領作戦は2日の降伏文書調印後も継続され、国際法違反であることが分かる。
毎夏恒例となったビザなし渡航も必ず報道される。日本側は近年、ファッションショーや着物ショーを島で実施して島民の人気を呼んでおり、各イベントは毎回、写真入りで紹介される。交流の一環として、日本人医師団が無料で行う島民の診療も報じられる。しかし、「赤い灯台」が「日本側医師団はクリル地区側のすぐれた配慮に感謝した」などと、日本側がへりくだったように報じているのが気になった。
「国境で」は、島民が10月に長崎を訪れたことを写真入りで報道、その際に高齢の日本人が突然、島の代表団に北方領土即時返還を要求するハプニングがあったことを指摘し、「この人には島に来てもらい、ロシア国籍を取って一緒に住んでもらおう」と皮肉った。
92年に始まったビザなし渡航では、日本人延べ2万950人が四島を訪問、ロシア人延べ9340人が日本を訪れ、経費はすべて日本政府が負担した。当初、領土問題解決への環境整備と位置づけられたビザなし渡航だが、22年を経てロシア側は「夏の風物詩」と冷ややかに見ている。ビザなし渡航も見直しと新機軸が必要だろう。
なごし・けんろう 1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学卒。時事通信社でモスクワ、ワシントン支局、外信部長、仙台支社長などを経て現職。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授。著書に『独裁者プーチン』など。
