だが、他方で経済格差は深刻の度合いを深め、やがてそれは「反米」を唱えるチャベス前政権を生み出す原動力となった。取りあえず、米国の国際金融資本が石油で得た富を奪い、それが同国に貧困と格差を生み出したという、「チャベス流」にありがちなストーリーが生まれた。いわば、「『米国流』の新自由主義の犠牲者だった」というのが、チャベス前政権やそれを支援している世界の左派勢力による主流の見方であったのだろう。

 そして、マドゥロ政権がハイパーインフレなどの経済的苦境に陥っているのは、主に米国などによる経済制裁が原因だという見方をする人たちもいる。だが、ハイパーインフレは本当に経済制裁が原因なのだろうか。

 国際金融において「マンデルの三角形」という考え方がある。一国においては、「為替レートのコントロール」「資本移動の自由」「金融政策の自律化」のうち、同時に二つしか採用できないというものである。

 この枠組みで考えると、ベネズエラ経済の現在が理解しやすくなる。簡単に言うと、マドゥロ政権は為替レートのコントロール、資本移動の自由の二つを採用している。これが今回のハイパーインフレを準備している。

 チャベス前政権では、為替レートのコントロールを固定為替レート制で実現しようとした。これは同国の通貨を「割高」に維持するためのものだった。

 ベネズエラの輸出は石油が大半を占め、国内経済もチャベス前政権から現在まで急速に原油依存体質を強めた産業構造になっている。自国の通貨高はベネズエラの現在の経済構造からいえば「生命線」だと、政権側が考えているのだろう。

 為替レートのコントロールは、実際には政府とベネズエラの中央銀行が行うことになる。つまり、金融政策は為替レートのコントロールに使われることになり、国内の経済状況への対応には財政政策が割り当てられる。

 チャベス前政権では、経済格差を根絶しようと、低所得層向けの社会保障の支出を急増させていった。他方で価格統制も行われ、自由な経済活動は損なわれていった。

 また近年では、原油価格の国際的下落により、先述の産業構造上、ベネズエラ経済が急速に低迷した。膨張する支出と、経済悪化で縮減する政府収入の中で財政状況が悪化し、そのファイナンスをやがて中央銀行が発行するマネーそのもので行うようになる。つまり「財政ファイナンス」という手法である。これは中央銀行のマネタリーベース(資金供給量)の急増を生む。
2019年1月、ベネズエラの首都カラカスで、同国の憲法を持ちながら話すマドゥロ大統領(ロイター=共同)
2019年1月、ベネズエラの首都カラカスで、同国の憲法を持ちながら話すマドゥロ大統領(ロイター=共同)
 これ以前「割高」に維持された為替レート制が、マドゥロ政権誕生の2013年以後、頻繁に引き下げられていったのは、このような国内事情による。ここまでの話を考えれば、米国などの経済制裁が一切関係ないことが分かる。

 ハイパーインフレが出現する主因は、為替レートのコントロールを意図し、さらに財政支出の放漫な増大の結果、金融政策を失敗することに帰結したことによる。一見すると「マンデルの三角形」でいうと、今のベネズエラ経済は、変動為替レートと資本移動の自由の組み合わせのように思える。それは大きな間違いで、上記の事情から、金融政策の自律化を大きく損ねた状況になっているのだ。