そうして、事実上「通貨安シンドローム」が反映されたことで、現在のハイパーインフレが出現している。その通貨安シンドロームはチャベス、マドゥロ両政権が採用した、左派的な財政拡大路線や、価格統制や最低賃金の引き上げによる民間経済の抑制、原油依存の産業構造への「転換」という政策の失敗によるものだ。

 わかりやすくいえば、政府のツケを中央銀行がおカネを刷って、どんどん払ったために、自国通貨の価値が対外的に大きく下落せざるを得ないのである。このとき、金融政策はインフレを沈静化する役割を失っている。それが「金融政策の自律化がない」という意味だ。

 反米や反新自由主義を唱える左派勢力には、ハイパーインフレは欧米の経済制裁の結果であり、生活必需品の不足によるものだという認識だろう。だが、生活必需品の不足もチャベス、マドゥロ両政権の左派的な政策が引き起こした高インフレ、ハイパーインフレの帰結である。

 日本共産党は樹立当初のチャベス政権に対して、新自由主義に抗する反米政権という理由からも、その活動に期待を表明していた。最近は、マドゥロ政権の独裁ぶりへの批判に転じているが、日本共産党は「反米」「反新自由主義」にこだわる余り、チャベス、マドゥロ両政権の評価を首尾一貫したものとはしていない。前述したように、マドゥロ政権の混迷は、既にチャベス前政権の政策で準備されていたからだ。

 また、経済評論家の上念司氏の指摘のように、日本の左派勢力が唱えるような「平和的な解決」を主張することは、ベネズエラ国民の生命を脅かし、実際に数多く奪っている状況のもとでは、独裁政権に利するものだと言っていい。

 ちなみに、ここまで書くと、「安倍政権だって『財政ファイナンス』ではないか。日本銀行の信認が失われかねない」という皮相な見方が出てくると予想される。だが、日本の財政は「緊縮スタンス」で運用されてしまい、それが経済の安定化を成し遂げられない原因になっている。

 むしろ、放漫財政に伴う経済悪化の心配よりも、緊縮財政による悪化の心配をすべき段階である。実際に、ベネズエラと大きく違い、今の日本のインフレ率は0%をわずかに出たぐらいだ。急激にインフレ率が加速する心配もない。

 なぜなら、中央銀行が為替レートに振り回される状況ではなく、国内の経済状況を分析した上で2%のインフレ目標を採用し、運用しているからだ。急激なインフレが起きない仕組みが採用されているのである。

2019年2月、国会で記者会見する共産党の志位委員長
2019年2月、国会で記者会見する共産党の志位委員長
 もっとも、このインフレ目標を日銀が採用する前まで、日本ではベネズエラと逆に「円高シンドローム」という状況に置かれ、デフレ不況が続いていた。今思えば、情けない限りである。しかも、今秋に予定されている消費税率10%への引き上げは、日本の経済政策の失敗を再び引き起こしかねない。ベネズエラと同様に、日本でも経済政策が失敗すれば、また「失われた20年」に逆戻りしてしまうだろう。

 ベネズエラとブラジルの国境では、援助物資を受け取ろうとした民衆に、政権側が発砲して死傷者が出た。郵便学者の内藤陽介氏が指摘するように、このような民衆への発砲は、およそ貧困層への共感をもとにして生まれた政治体制とは思えないものだ。

 日本国内でも「反米」や「反新自由主義」というイデオロギーで、この独裁政権の振る舞いを、事実上肯定する人たちもいる。一方で、独裁政権も「反米」などの旗印で、自分たちの経済政策の失敗を隠そうとするだろう。そこに政治イデオロギーの持つ本当の恐ろしさがある。