ただ、米国は「制裁緩和」という見返りは、もっと可視的な非核化が進まない限りは提供しない意志が固いだけに、「制裁緩和」ではない南北経済協力の再開をどのように論理づけるのか、もしこの問題が議論の俎上(そじょう)に上がるのであれば注目されることになる。

 韓国としては、過去においても、北朝鮮の核ミサイル開発が行われていた時も開城工業団地や金剛山観光という経済協力事業は行っていたという実績がある。したがって、文在寅政権としては、この事業を再開することによって、北朝鮮に対する韓国の影響力の回復を狙いたいと考える。前述した「新韓半島体制」における「韓国の主導権」云々は、そうしたコンテクストの中で理解される。

 しかし、北朝鮮の核ミサイル開発に対する対抗措置として、この経済協力事業を中断したという経緯があるため、やはり相応の可視的な非核化の進展がないと、そして何よりもそれに対する見返りとして米国がそれを寛大に見るということがないと、韓国独自の判断で再開するということは難しく、予定されている金正恩のソウル訪問も難しい、ということになる。

 実際に、文在寅大統領は若干奇妙な論理ではあるが、北朝鮮の非核化に対する米国の見返りに関して韓国がその費用の一部を南北経済協力という形で負担する用意があるという論理を提示する。米国トランプ政権さえ許容すれば、南北経済協力を復活させる意欲は強いように思う。

 また、今回の米朝首脳会談で、開城工業団地はともかく金剛山観光事業程度は復活する条件が準備できるのではという期待が大きいように思う。

 確かに、北朝鮮の非核化が不確かな状況で韓国が「前のめり」になっているという印象を拭えないことは確かであるが、それを「韓国は北朝鮮にだまされているだけだ」「トランプ大統領もそれに乗せられているだけだ」と悲観的に見る必要もない。韓国としては南北関係を改善することが北朝鮮に対する韓国の影響力を復活させて、それが主導権の掌握につながると考えていることは確かであるからだ。

 最後に、日本の取るべき対応については以下のように考えられる。北朝鮮の非核化はあり得ないことであると頭から決めつけるのではなく、むしろ、北朝鮮を非核化に追い込むために外堀を埋めていく作業に日本も積極的に関与するという基本姿勢が必要ではないかと考える。
2019年1月、北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(右)から金正恩党委員長の親書を手渡されるトランプ米大統領(ホワイトハウスのダン・スカビーノ氏のツイッターから・共同)
2019年1月、北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長(右)から金正恩党委員長の親書を手渡されるトランプ米大統領(ホワイトハウスのダン・スカビーノ氏のツイッターから・共同)
 もちろん、その確実な保証があるわけではなく、北朝鮮はまた核実験やミサイル発射をすることで、約束を裏切るのかもしれない。しかし、その時はまた従来の制裁局面に戻るようになるし、それを主導すればいいだけの話である。米韓も、そうなればいつまでも融和局面にしがみつくということにはならないはずだ。

 現状では、一方で北朝鮮の非核化を既成事実にするように慎重にかつ着実に見返りを提供することに関与する、その点での日米韓の協力を行っていくという姿勢が必要ではないか。しかし他方で、北朝鮮の非核化の不透明さが高まる時にも備えて、いつでも制裁局面に戻ることができるような態勢を準備しておくことが必要だし、そのための日米韓さらには中露を含めた協力を準備しておくことが必要だ。そうした二面作戦を採用するべきであって、今の時点から、どちらか一方に決め打ちをするというリスクを冒す必要はない。