前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授)

 「北朝鮮政策はうまくいっている。そして、今後もうまくいかせないといけない」。2月27、28日の米朝首脳会談を前にして、トランプ大統領の「胸の内」はこんな一言で表されるのではないだろうか。

 トランプ氏の本質はポピュリスト(大衆迎合政治家)である。常に自分を支持する人々を意識し、それを2016年大統領選挙における当選の原動力にした。

 もちろん政権発足後も、規制緩和や大型減税、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と「パリ協定」離脱、エルサレムへのイスラエル首都移転など、利益還元に勤しんだ。そして、大統領選再選のために何を訴えたらよいのかに腐心し、最近では対中貿易戦争や、メキシコ「国境の壁」建設のための非常事態宣言など、さまざまな言動に拡大させている。

 では、トランプ氏の過去2年間の政策において、最大の「レガシー(遺産)」とは何か。国内政策では、何といっても経済発展であり、外交では対中強硬策などもあるが、何よりも目立つのが北朝鮮政策である。

 規制緩和と大型減税が「トランプ景気」を支えてきたが、景気循環のサイクルにより今後の景気が頭打ちとなる可能性を考えれば、今後訴えたいのは北朝鮮問題での成果である。北朝鮮政策がうまく進むことを支持者にアピールし続けることで、トランプ氏の2020年大統領選の再選に直結するとみているはずである。

 2019年2月5日に行われた一般教書演説では、北朝鮮政策について述べたのは、わずか1分弱である。しかも、具体的な非核化への言及や北に対する否定的な言葉は一切なかった。

 それでも実際の時間よりも、北朝鮮政策の存在感は非常に大きかった。第2回会談の日程を公表したのがこの演説であるほか、「私が大統領でなければ北朝鮮との戦争だった」というのは、この演説の最大の決め台詞(ぜりふ)だったからだ。
2019年2月15日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領。国家非常事態を宣言した(ロイター=共同)
2019年2月15日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領。国家非常事態を宣言した(ロイター=共同)
 「金正恩とは恋に落ちた」「北朝鮮政策はうまくいっている」「北朝鮮は経済のロケット(のように急成長)となる」といった「前のめり」発言が続いているように、トランプ氏の北朝鮮政策に関する見立ては肯定的なものばかりだ。ポンペオ国務長官や国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表といった実務担当者は、トランプ氏の「思惑」に慎重ながらも言葉を合わせているようにもみえる。

 ただ、そもそも昨年6月の第1回米中首脳会談前に米国が望んでいたのは「まず北朝鮮が先に非核化する」ことだったはずである。それを端的に示す「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)」という言葉は今や完全に消えてしまってしまったようにみえる。昨年夏ごろから、ポンペオ氏の北朝鮮の非核化目標は「最終的かつ全面的で検証可能な非核化(FFVD)」という言葉に変わっていった。