しかし、わが国にとっては、北朝鮮がいまだに核・ミサイル開発を中止せず、拉致問題も解決していない現状、韓国があからさまな親北・反日姿勢を強めている状況の中にある。米朝首脳会談という「パフォーマンス」だけで終わられては、日本国民にとってはたまったものではない。

 安倍晋三首相がトランプ氏をノーベル平和賞に推薦したかどうかは定かではない。それでも、トランプ氏が国連安保理による北朝鮮に対する制裁をきっちりと継続させ、韓国による「制裁逃れ」への加担を許さないよう強い姿勢で臨んだ場合はどうだろうか。そして、最後のトドメとして米朝首脳会談で、透明性がある形で実効ある核ミサイル開発の断念が保証され、拉致問題が解決に向かえば、「トランプ氏のノーベル平和賞の価値も認めよう」というのが日本国民としての切なる思いだろう。

 今回はたまたま、トランプ氏が「安倍首相からノーベル平和賞に推薦された」と暴露し、想定外のパフォーマンスとなってしまった。それでも、反日政策に凝り固まった韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領や、わが国固有の領土である北方領土の返還交渉に後ろ向きの姿勢を鮮明にしているロシアのプーチン大統領だったら「推薦に値しない人物」という激しい反発が湧き起こっただろう。

 中距離核戦力(INF)全廃条約からの脱退を表明するなど、米朝会談以外の政治姿勢は、ノーベルの遺言から考えれば、平和賞にほど遠い。もし本当に推薦したとするならば、今のノーベル平和賞の価値から考えると、安倍首相にとっては実害のない「手土産」くらいの感覚だったのだろうか。

 実は、安倍首相の祖父である岸信介元首相も、1960年に日米安保条約を締結したことの評価だろうか、ノーベル平和賞に推薦されたことがある。「かつて祖父が推薦された」という意味で、推薦のハードルも下がったのかもしれない。

 朝日新聞が社説で「外交辞令では済まされぬ、露骨なお追従」と批判しようとも、野党が「(推薦が)世界の笑い者」とバカにしても、北朝鮮が核ミサイル開発を断念し、拉致問題を解決すれば、「こういう結果を見越して私は推薦した」と胸を張って言うだろう。また、相変わらず北朝鮮が核ミサイル開発を続け、拉致問題が解決せずに、米朝首脳会談がパフォーマンスに終われば、ダンマリを決め込めばいいだけの話である。
2018年4月、米フロリダ州パームビーチでの首脳会談前にトランプ米大統領の出迎えを受ける安倍首相(共同)
2018年4月、米フロリダ州パームビーチでの首脳会談前にトランプ米大統領の出迎えを受ける安倍首相(共同)
 「政治は結果責任」とは言うものの、「推薦」という結果責任を問われない行為は、内外に課題が山積している安倍首相にとっては、些末(さまつ)な出来事かもしれない。しかし、内外の課題に対応し、トランプ氏へのノーベル平和賞推薦が些末な出来事だと国民から評価されるような政治に邁進(まいしん)できるのか。

 郷里の長州藩士、桂太郎を超える憲政史上最長の通算首相在任日数のカウントダウンが始まり、来年の東京五輪・パラリンピックも控える中、最大の「落とし穴」は7月に予定されている参議院選挙だ。今回の推薦は、トランプ氏のパフォーマンスが自らの支持率に響かないように、と水面下で行っていた可能性が高い。安倍首相にとってはバラされたくなかった事実かもしれないが、それでも野党やマスコミの批判など「痛くもかゆくもない」と高をくくっているに違いない。(一部敬称略)