樫山幸夫(産經新聞元論説委員長)

 トランプ米大統領とメディアの対立は来るところまで来たようだ。中間選挙翌日の記者会見で執拗に食い下がったCNNテレビの記者に大統領が激怒、ホワイトハウスの記者通行証を無効にしてしまった。CNNは撤回を求めて提訴、裁判所は訴えを認める決定を下したが、米のメディアを揺るがす騒ぎになっている。

 〝言論の不自由〟は中国の専売特許かと思いきや、民主主義のリーダーであるはずの米国で同じことがおきたのだから驚く。

 しかし、その一方でメディアが権力者に対抗する手段として、法廷闘争をもってすることが適当かどうか議論のあるところだろう。言論機関はあくまで言論で闘いを挑むべきではないのかという指摘もあろう。

 問題がこじれ、トランプ氏とメディアの対立がいっそう激しくなることも予想されるが、「権力とメディア」という、古くて新しいテーマにあらためて一石を投じたといえそうだ。

 11月7日の会見で、〝事件〟は起きた。CNNのホワイトハウス詰め、ジム・アコスタ記者が、移民問題やロシア・ゲート事件などについて大統領の見解を質した。答えに納得しない記者は、大統領が次の質問者を指名した後も、マイクを離そうとしなかった。

 大統領は「CNNはあなたを雇っていることを恥じるべきだ」「失礼で恐ろしい人だ」「CNNは数多くのフェイク・ニュースを報じてきた。国民の敵だ」などと口を極めて罵倒。この間、ホワイトハウス職員がマイクを取り上げようとして、両者の腕が交錯した。

 通行証が無効にされたことを受けて、CNNは11月13日、トランプ氏と政府高官らを相手取り、撤回を求めてワシントンの連邦地裁に提訴。地裁は16日(日本時間17日未明)、CNNの主張を認めて、ホワイトハウスに対し通行証を暫定的に復活にさせるよう命じた。

 とりあえずはメディア側の勝利に終わったが、ホワイトハウスがどう出るか、双方の対立はまだまだ続く気配をみせている。

 今回の訴えの中でCNNは、「ホワイトハウスの処置は、表現、報道の自由を保障した合衆国憲法修正1条に違反する」と強く非難。ホワイトハウスは「アコスタ記者の行動によって公平で秩序だった記者会見の運営が妨げられた。修正1条は1人の記者が会見場を占領するためにあるのではない」(サンダース報道官)と反論していた。
2019年1月、ホワイトハウスの記者会見室に姿を見せたトランプ米大統領(UPI=共同)
2019年1月、ホワイトハウスの記者会見室に姿を見せたトランプ米大統領(UPI=共同)
 速記録を読み、ビデオを見る限り、かなり強引なところはあったものの、アコスタ記者が大統領に対してことさら非礼な態度をとったようには見えなかった。もちろん丁重にも見えなかったが。

 アコスタ記者はこれまでも、大統領にきびしい質問を繰り返してきており、大統領と以前から緊張した関係にあったようだが、「CNNは恥じるべきだ」とか「国民の敵」というトランプ氏の言葉には驚いた

 「秩序だった記者会見が妨げられた」というホワイトハウスの説明は、もっともらしく聞こえるが、実はおかしなことだ。マイクを独占することの善悪、是非は、記者会側が自らのルール、慣例に則って判断すべき問題であって、政権があれこれ口を出すことではないだろう。