しかし、私が思うには、本当に5Gのインフラ整備が国民にとって必要なら、税金を使ってやればいいのではないでしょうか。テレビ局に請求するのは、なんだか筋が違っている気がします。

 自動車税が高速道路などの建設に使われる、道路特定財源制度のような、受益者負担の合理性は、そこには感じ取れません。新しく携帯電話の通信環境が整備されることによって、テレビ局が何か利益を得るのでしょうか。利益を得るのは国民ではないでしょうか。

 だったら税金でまかなうべきです。テレビ局に課すべきではありません。今回の電波法改正案には、そういった根本的な胡散(うさん)臭さが感じられます。

 胡散臭さという点から派生したのでしょうか、巷(ちまた)では今回のテレビ局への「5割増し」は、ニュースやワイドショーなどで政権批判を繰り返す、テレビ朝日やTBSへの、牽制(けんせい)措置ではないかという言説も見かけます。

 これはまったく的外れだと私は思います。比較的政権に近い報道姿勢を見せるフジテレビや日本テレビ、NHKに対しても、5割増しを同様に課しているのですから、テレビ局への圧力だと勘繰るのは、いささか過敏すぎると言えるでしょう。
 
 もちろん、民間放送は電波を独占することによって直接的に収益を上げ、利潤を追求する私企業であるという一面はありますが、別の側面では公共の電波の独占を許されているが故に、公共の福祉を担う社会的責務を持つ特殊な事業体であると言えます。私は後者の方こそ、今注目しなければならない重要な側面だと考えています。

 限られた電波の有効利用という、根本の原則に立ち返ってみましょう。そもそもなぜ特定の放送局だけが、貴重な地上波の相当規模の周波数帯域を独占利用することが認められているのか。

 それは放送法に定められた通り、放送局は公共の福祉に資する放送を送信していると認められているからであり、本当に放送局が公共の福祉に貢献しているのなら、極論すれば電波利用料は無料にするのが筋ではないかと私は考えます。逆に言えば、公共の福祉に寄与しないような放送局は、電波を独占する根拠も失ってしかるべきです。

 地上波のテレビ局が一つ消えてなくなり、その局が独占していた1チャンネル分の周波数帯域を移動体通信事業で有効に使うことができたなら、かなりの経済的メリットが生まれるはずだと試算した人もいました。テレビと移動体通信事業は、地上波という限られたパイを分け合う敵同士です。どちらが公共の福祉に、あるいは社会の発展に役立っているのか、シビアに比較される時代でもあります。

 今は、動画はネットで見る時代かもしれません。ネット発で受信する動画もあれば、テレビ発でネットで受信する動画もあります。しかし「家族でくつろぐお茶の間に入り込む」存在であるテレビには、特有のテレビ文化というものが歴然と存在していて、また確立しています。
2018年4月、衆院予算委の集中審議で、疲れた表情を見せる安倍首相
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 家族そろって楽しめるスポーツ中継、しっかりと作り込まれたドラマやドキュメンタリー、これらはリビングの4K、8Kのテレビ画面で見たいと、私などは思います。ぐらっときた時、すぐに地震速報を見られるのもテレビの心強さです。テレビが興隆しても映画文化は廃れなかったように、ネットが興隆しても、テレビ文化は決して廃れることはないでしょう。

 政府には算出根拠の不明瞭な電波利用料などでテレビ局に負担を強いるのではなく、公共の電波を使うテレビならではの、健全な文化を育成するような政策をとってもらいたいものです。

【編集部より一部訂正について】
 記事公開時に「免許のいらない小出力のトランシーバーやアマチュア無線にも、電波利用料はかかりません」としていた部分は、アマチュア無線にも電波利用料が課せられており、誤りでしたので、訂正しています。