林吉永(NPO国際地政学研究所理事)

 2018年12月20日、海上自衛隊P1哨戒機が、能登半島沖、日本の排他的経済水域(EEZ)内で、韓国海軍駆逐艦の火器管制レーダー(Fire Control System、以下FCレーダー)の照射を受け、日本政府は外交ルートを通じて抗議した。

 韓国の通信社、聯合ニュース(18年12月23日付)によると、「韓国海軍艦艇は東海上で遭難した北朝鮮漁船を捜索していた。現場では、威嚇的接近飛行を行っていた海自P1哨戒機に対し、追尾レーダーと一体で作動する映像撮影用の光学カメラを使用した。この際、ビーム照射はしていなかった。海自P1哨戒機からの通信は、韓国海洋警察を呼び出す交信だったと認識していた」と伝えている。

 また、韓国国防部は「日本側に脅威を感じさせるいかなる措置もとらなかった」と照射を否定、さらに、ソウルで開催された日韓外務省の局長級協議において俎上に載った「照射の有無」は、対立をあらわにしただけであった。加えて、韓国国防部は、2019年1月17日、在ソウル日本大使館防衛駐在官を呼び出し、日本に対し厳重抗議を行っている。

 果たしてこの事件は、善玉悪玉をあぶり出したところで解決するものだろうか。むしろ、「秀吉の侵略」「併合・植民地化」「慰安婦・徴用工」などの火種に油を注ぎ、韓国の対日感情を昂(たかぶ)らせ、日韓関係を一層悩ましく深刻な状況に陥れるだけだろう。そこで、事件の整理が解決の示唆となると考え、いくつかの視点を示したい。

 まず、軍事上の視点である。そもそもFCレーダーは、その多くの性能や仕組みが外部に知られたくない、知らせたくない、秘匿されるべき装備である。例えば、自衛隊の使用電波の周波数、波長を敵が知れば、敵が電波特性に合わせてピンポイントの電子妨害を行って、自衛隊の探知能力や、ミサイルなど火器の命中率を低下させる。

 逆に、自衛隊が敵の諸元を知り、敵の照準波を妨害すれば被害を局限できる。日韓に限らず、電子妨害は「秘中の秘」であり、相手装備の性能諸元を知る「手の内を公開する」こと自体、軍事的には「愚かな行為」である。

 2013年には、中国海軍が海自艦艇、および搭載ヘリに向けてFCレーダーを照射した事件があった。これによって、中国海軍が使用するFCレーダーの電波諸元を知ることができ、ミサイルなど自衛隊に対する火器の照準を妨害しやすくなった。このように、「脅威の諸元」が取得できると考えれば、今回の事件は、黙して歓迎すべき類(たぐ)いの事象かもしれないのだ。
防衛省
防衛省
 それでは、日本政府がどのような経緯で韓国に抗議することになったのか。発端は明らかだが、「抗議に至った経緯」は見えない。当然、事件は現場から指揮系統を通して官邸まで報告されたのであろう。

 「陸自の『日誌報告』が防衛省トップに上げられていなかった問題」で処分が行われて以来、対外的事案の報告は、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」現状が想像される。そして、「韓国をギャフンと言わせたい」空気に満ちているタイミングで「抗議」に移り、現に軍事上、「昨日の友を今日の敵」にしてしまう重大事に発展させつつある。