また、現場の秘匿事項が「シビリアンコントロール(文民統制)の俎上で暴露されてしまった」ことは悩ましい限りである。言動が法的に正当であっても、それは一般論で言う合理性であって、自衛官には「殺戮・破壊を勝利のための手段とする一般社会と乖離(かいり)した合理性」があり、当然「戦いを有利に導くさまざまな保全」が求められる。他方、シビリアンコントロールの難しさは、「軍事」と「社会性」を区別することだ。

 次に、「海上救難活動の任務」は、主として日本や米国の場合、「海上保安庁」や「沿岸警備隊」が担う。韓国では、いわゆる「Coast Guard」 組織が、14年のセウォル号沈没の不手際以降、組織改革が一転二転し、現在は「韓国海洋警察」が任務に就いている。

 しかし、今回のケースでは「韓国海軍」が出動していた。それでは海軍が出動した理由は何か。遭難船舶近傍を航行中という偶然が考えられるが、そうであれば、日本のEEZでの事象であることから、海自が「韓国海軍艦艇」の動態情報を得て事情を把握できるはずであり、問題発生を機に、「友軍」間で諸情報を共有できる「衝突防止拡大協定」に向けた協議が生まれてもいいはずだ。

 これまでの韓国側の声明は、日本へのクレームに偏っており、歯切れが悪い印象を受ける。その原因としては、保全を優先した装備や行動にかかわる「軍事上の秘匿」があったからではないだろうか。本来、保全上触れるべきでない、忖度(そんたく)があってしかるべき事態に対する日本の振舞いに、自衛隊との友好を重ねてきた韓国軍人であっても首を傾(かし)げたのだろう。従って、日本は、忖度なき「突っ込み」を控えるべきだった。

 そして2019年に入り、海自P1哨戒機の韓国艦艇への「異常接近」にクレームがつけられた。韓国の「事の状況によってしかるべき対応をとる」という公的メッセージである「威嚇飛行に必要な措置」には、戦争との距離を縮める空気を感じさせた。それほどまでに韓国が頑(かたく)なになる事情について、密かに忖度し合える機会が作れなかったのだろうか。

 今回の事件が「軍事的緊張度を高め、敵対意識の発生を助長する」ことになるという深謀遠慮がなく、「証拠を突きつける」行為に走った「日本外交」はうなずけない。韓国側のキーワードは、「韓国海軍艦艇」「北朝鮮船舶」「FCレーダー照射」「頑なな反発」「異常接近と危険飛行への警告」であった。

 これらから、「韓国海軍艦艇の行動は秘匿性が高い」「対北朝鮮政策の潜在」「制裁決議に抵触」をうかがわせる状況、そして想定外の「日本の妨害」が組み合わせられた。しかも、軍事上、電子機器にかかわる秘匿事項を公にした日本の行為に対し、韓国、別けても軍が激怒したとも考えられる。
記者会見で映像公表の意向を表明する岩屋毅防衛相=2018年12月、防衛省(宮川浩和撮影)
記者会見で映像公表の意向を表明する岩屋毅防衛相=2018年12月、防衛省(宮川浩和撮影)
 そもそも、軍事上の緊張は質(たち)が悪い。友好関係にあった国家間に、相互が「不愉快」に受け止める特異な衝突が発生すると、「入ったひび」の修復に時間がかかるだけではなく、衝突が重なると、より重大な事件に発展しかねない。