小原凡司(笹川平和財団上席研究員) 

 昨年12月20日に、韓国海軍駆逐艦「広開土大王(クァンゲト・デワン) 」が海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダー(FCレーダー)を照射した事案は、その後、日本と韓国の間に横たわる大きな相違を見せつけるに至った。

 その相違は、両国が公表した動画に、象徴的に見て取ることができる。日本は真実を明らかにしようとし、韓国は自国が正しいというイメージを拡散しようとしたのである。

 厳密に言えば、水上艦艇のFCレーダー照射は戦闘機のロックオンとは異なるが、攻撃直前の過程であり、「攻撃される」という緊張を相手に強いる危険な行為である。

 一般的に、水上艦艇は、対空および対水上捜索用レーダーなどを用いて捜索し、目標を探知したら敵味方識別を行う。その結果、攻撃の対象であると判断されれば、命令によって武器システムに目標が移管される。その時点で、より精密に目標を追尾できるFCレーダーが目標を捕捉・追跡するのだ。FCレーダーは、捜索用レーダーのように広い範囲を見るのではなく、指示された目標だけを追尾するので、発射される電波の幅が狭い。そのため、照射されている以外のビークル(艦艇、航空機、車両等)がこの電波を探知することは考えにくい。

 韓国側は、海上自衛隊の哨戒機が低空で近い距離を威嚇飛行したと主張しているが、防衛省が公開した動画を見る限り、P1が行ったのは通常の情報収集活動だ。哨戒機が外国海軍艦艇等に対する情報収集は日常的に実施される。もちろん、韓国海軍に対してだけ行うものではない。海軍艦艇だけでなく、民間船舶であっても、必要であれば情報収集を行う。今回、韓国海軍艦艇は「捜索活動」を実施中で、通常航行していたわけではなく、どのような活動が行われているのか哨戒機が確認するのは当然のことである。

 動画内の機内交話の様子は、この時の飛行が、通常の情報収集活動であることを裏付けている。機内交話には、目標の方位距離や、「1500フィートまで上昇する」といった機体の運動、次に行う情報収集の内容などが含まれている。種々の情報を声に出してパイロットとクルーたちの間でやり取りするのは、マルチ・クルー機の特徴である。

 パイロットとクルーは、次にどのような行動をとるのか、機体がどのように動くのか、センサーでどのような探知があったのか等の情報を共有し、各搭乗員が次に自分がなすべきことを的確に行えるようにするのだ。また、情報共有しておけば、その行動に対して、複数の目でチェックが入る。

 こうしたマルチ・クルー機の特徴が、韓国海軍艦艇に対してどのような情報収集を行おうとしたのか、どのような電波を探知したのか、どのような回避運動をしようとしたのかを明確に記録することになったということだ。
P1哨戒機が撮影した映像の一部。韓国側は「北朝鮮の遭難船を見つけるため」レーダーを作動させたとしていたが、韓国艦(右上)と、下方にある遭難船とみられる小型船とは目視可能な距離だった=2018年12月20日、能登半島沖(防衛省提供)
P1哨戒機が撮影した映像の一部。韓国側は「北朝鮮の遭難船を見つけるため」レーダーを作動させたとしていたが、韓国艦(右上)と、下方にある遭難船とみられる小型船とは目視可能な距離だった=2018年12月20日、能登半島沖(防衛省提供)
 また、海上自衛隊の哨戒機が低空を飛行していたとしても、それが「威嚇」だということにはならない。韓国海軍は、もちろん自らも哨戒も情報収集を行っている。哨戒機の飛行パターンを理解しているはずなのだ。

 動画からは、P1哨戒機が、韓国海軍艦艇が危険を感じていないか注意している様子がうかがえる。「韓国海軍艦艇から呼びかけがないか」とP1哨戒機の機長が確認したのは、もし危険を感じたのであれば、海上自衛隊機の意図を確認するために韓国艦艇が通信してくると考えていたからだ。