樫山幸夫(産經新聞元論説委員長)

 言葉は政治家にとって命にも等しい。人の心をとらえる弁舌で語りかけ、説明責任を果たすー。それができなければ、器量、資質を問われる。

 河野外相が、先日の記者会見での自らの不作法を謝罪した。遅きに失したというべきだが、愚弄されたメディア、憤慨した国民は矛を収めるかもしれない。しかし、一件落着とまでは言い切れまい。北方交渉に関する質問を無視したことが、ロシア側につけ入る隙を与えることにならないか。そうなって国益を損なったとしたら、謝罪では済まない。

 今回の騒ぎによって、過去のいくつかの記者会見を想起させられた。いずれも、政治家や政府高官が失言や問題発言、醜態を晒して物議を醸したケースだ。そのせいかどうか、不幸にして、当事者たる政治家たちはその後、いずれも声望を取り戻すことなく、表舞台から消えていった。

 今月15日の外相のブログは、11日の記者会見での対応について「お詫びしてあらためる」と陳謝し、「いつものように『お答えは差し控える』と答えるべきだった」と反省の弁を開陳。「交渉に影響が出かねないことについて発言を控えていることをご理解いただきたい」と釈明した。

 最初からそうしていれば、記者団を失望させることはあっても、反発、怒りを買うことはなかったろう。

 外相はこれまでも、対露関係については、省内でのインタビューや夜回り取材で、聞こえないふりをしたり、とぼけたりすることを繰り返してきたという。今回の態度は予想されたことではあった。
韓国と電話会談し、記者団の取材に応じる河野太郎外相=2019年1月、東京・霞が関の外務省(松本健吾撮影)
韓国と電話会談し、記者団の取材に応じる河野太郎外相=2019年1月、東京・霞が関の外務省(松本健吾撮影)
 それに加えて、首相官邸主導で進められて領土交渉の「責任者」に、アルゼンチンでの日露首脳会談で急きょ指名されたため、過剰なほどの慎重姿勢を取ったとの見方もささやかれている。

 日本政府がこれまでの「4島返還」から「2島返還」に方針を転換したと伝えられていることもあって、交渉がきわめて微妙な時期にきていることはまちがいない。それだけにだけに、氏の態度に関する推測も的外れと言えないかもしれない。

 外相が無視した質問は、「(北方領土は)第2次大戦の結果、ロシア領になったと日本は認めるべきだ」というラブロフ外相の発言についてだった。一切言葉を発することなく無視すること4度、「次の質問どうぞ」を繰り返した。