2019年03月11日 14:03 公開

イギリスの欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の期限を3月29日に控え、英下院は12日、今後の動きを決める重要な採決に臨む。要するにどうなっているのか、短く説明する。

採決はいつ

12日午前から審議を重ねた後に、夕方(日本時間13日早朝)に採決の予定だ。政府が発表するまでは、正確な時間は分からない。

下院議員たちは何に投票するのか

テリーザ・メイ英首相がEUと2年間、交渉してきた離脱協定について、判断を示す。

なぜ今回の採決が大事なのか

今回の採決が決め手となる。

もし下院が政府の離脱協定を否決すれば、その次の展開は二つに一つだ。

  • イギリスは3月29日に、離脱の条件についてEUと合意のないまま自動的にEUを出る、
  • あるいは、離脱期限が延期される。

もし下院が政府の離脱協定を可決すれば、イギリスは3月29日にEUを離脱する。しかし、EUとの貿易やその他は2020年12月までほぼ現状のままで続く。英政府とEUは2020年12月までに、永続的な通商協定を協議することになる。

下院はすでに首相の離脱協定を拒否したのでは?

はい。しかも、歴史的大差で

なのにまた? 協定は修正されたのか

まだはっきりしない。1月15日に否決された離脱協定よりも、下院議員たちが受け入れやすい内容になるよう、メイ政権の閣僚たちはEUを説得しようとしている。

英政府は12日の採決より先に、新しい離脱協定を議会に提出するものとされている。すでに否決された協定の微修正に留まるのか、多数の議員が賛成できるものになるのかは、まだ不明だ。

下院がまた協定を否決したらどうなる

今のところ大方の予想では、下院は12日夜にもメイ首相の協定を否決するとみられている。その場合、首相の約束にもとづき、下院は合意なし離脱を認めるかどうかについて採決することになっている。

この下院採決が13日に行われた場合、2つの展開があり得る。

  • 下院が合意なしブレグジットを認めれば、イギリスはEUと諸条件について合意のないまま3月29日にEUを離脱する
  • 下院が合意なしブレグジットを否決すれば、ブレグジット期限の延期をEUに求めるかどうか、下院は14日に採決するかもしれない

ブレグジット前の採決はこれで終わり?

そうとも限らない。

仮に12日夜の時点で首相が敗れても、僅差だった場合は、首相はEUに短期間の「技術的」延長を要求するかもしれない。ラストスパートの議会工作で必要な票数を確保して「ゴールを越える」ため、首相は22日のEU首脳会議で短い猶予を求めるかもしれないのだ。

その場合は、また下院が離脱協定について採決することになる。

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メイ首相の離脱協定の中身は

そもそもこれは、通商協定ではない。

離脱協定は単に、イギリスが整然とEUを出られるようにするという合意に過ぎない。

イギリスとEU加盟各国の市民生活や商取引の混乱を最小限にとどめるため、3月29日の離脱から少なくとも1年9カ月の間は、イギリスとEUの関係を大方これまで通りに継続し、その間に永続的な通商協定を取りまとめようという合意だ。

離脱協定ではさらに、イギリスがEUに「手切れ金」として390億ポンド(約5兆6000億円)をEUに払うことになっている。

EU圏に住むイギリス人と、イギリス国内に住むEU加盟国の国民は、在住権や社会保障を受ける権利を持ち続ける。

市民生活への影響は

12日の下院採決は、今後数十年にわたるイギリスの経済や社会に大きな影響を及ぼす。イギリスに住む人たちの収入、雇用を含め、あらゆることに関係する。

即座に目に見える影響が出る可能性もある。合意なしブレグジットになれば、港や空港で大混雑となり、食料や医薬品の供給が混乱するおそれがあるという懸念は根強い。

長期的には、多くの大手多国籍企業がイギリスから外国に移転するなど、イギリス経済に長引く打撃をもたらすのではと心配されている。

その一方で、こうした懸念は恐怖を大げさにあおっているだけで、EUときっぱり別れた後のイギリスはむしろ繁栄するという意見もある。

英閣僚は協定をどう修正しようとしているのか

離脱協定で特に難関となったのが、英・北アイルランドとアイルランドの国境の扱いだ。約500キロに及ぶこの国境が、イギリスとEUの間にある唯一の地上の国境だ。

メイ首相とEUがまとめた離脱協定には、ブレグジット後の期限内に英・EU通商協定がまとまらなかった場合でも、アイルランドと北アイルランドの間で厳格な国境審査を復活させずに済むよう、「バックストップ(防御策)」と呼ばれる条項が含まれている。

アイルランドはEU加盟国で、北アイルランドはイギリスの一部だ。ブレグジット後はこの間に、イギリスとEUの唯一の地続きの国境ができることになる。「厳格な国境」を置かないとはつまり、ブレグジット後も厳格な国境検査をせずにモノが通過できるようにするということだ。

しかし、バックストップ条項によると、ブレグジット後の移行期間が終わる2020年12月までに国境の扱いが解決できなかった場合、北アイルランドはEU単一市場の一部ルールに従うことになる。つまり、北アイルランドに入る製品はEU基準で検査されることになる。

さらに、このバックストップでは一時的な単一関税区域が設けられるため、実質的には英国全体がEUの関税同盟に残ることになる。

何より、EU側が合意しなければ、イギリスはバックストップから抜け出せない。

EUときっぱり手を切りたい与党・保守党のブレグジット派議員たちは、このバックストップ条項がブレグジットを空文化してしまうと猛反発している。政権と閣外協力している北アイルランドの民主統一党(DUP)も、バックストップによって北アイルランドとグレートブリテン島で差異がでれば、それはイギリスの連合を脅かし、1998年のベルファスト合意(イギリスとアイルランドの和平合意)に抵触するものだと反発している。

こうした状況で1月29日には大多数の下院議員が、バックストップ条項を修正した新協定が必要だと表明した。

下院の離脱派議員たちは、バックストップを時限的な措置にするよう求めているが、EUは一貫してこれを拒否している。

EUは常々、昨年11月にメイ政権と合意した離脱協定が、最善にして唯一のもので変更はできないという立場を堅持している。メイ首相もそう繰り返していたが、今年1月に下院で大敗すると、修正は可能だと言うようになった。

2度目の国民投票は?

政府の離脱協定にもとづくブレグジットの是非を、あらためて国民投票にかけるべきだという動きがある。

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最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は長く態度を明示していなかったが、2月末にようやく2度目の国民投票の実施を支持すると述べた。ただし労働党は引き続き、独自のブレグジット案か総選挙の前倒しを優先して追求する方針だ。

労働党のブレグジット案は政府の離脱協定を修正したものになるとされ、近く公表の見通し。また、労働党がどういう内容の国民投票を支持するのかも、まだ明らかになっていない。

ただし、住民の過半数がEU離脱を支持した選挙区の労働党議員たちは、2度目の国民投票に反対する可能性が高い。

「やわらかめ」のブレグジットは可能か

労働党指導部は、「ノルウェー方式」と呼ばれるEUとの取り決めを受け入れつつあるようだ。

ノルウェーはEUに加盟していないが、EUの単一市場には参加している。この方式に倣ってイギリスもEU単一市場に残れば、雇用が保護されると、労働党や与党・保守党の一部議員が支持している。

仮にメイ首相の協定が12日に否決された場合、「共同市場2.0」と支持者の間で呼ばれるこの提案について、議会の支持を取りまとめようとする動きが活発化するかもしれない。

一方で、ノルウェー方式に反対する人たちは、問題となっている域内の人の自由移動は止まらないし、イギリスがEU圏外で独自の通商協定を結ぶ自由も確保されないと反発している。

(英語記事 Big Brexit vote: What do I need to know?