三浦瑠麗(国際政治学者)

 安倍晋三政権の通算の在職日数は、2月に吉田茂(2616日)を抜き歴代4位になりました。日本の憲政史上歴代最長の政権を視野に入れているこの政権を、どのように評価すべきか。

 そして、第1次政権の終盤にはあれほど脆弱(ぜいじゃく)であった安倍政権は、なぜこれほど長く続いたのか。現代の日本政治を考える際には、これらの問いに答える必要があるかと思います。

 私は昨年に出版した拙著『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)の中で、この二つの問いに答えることを試みました。この本は、第2次以降の安倍政権の中期を扱っています。

 2015年に出版された前著『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書)は安倍長期政権の初めの3年間を対象とし、その間に垣間見えた政権の性格、政治の対立軸を扱っていました。しかし、『あなたに伝えたい政治の話』を上梓するころには、安保法制をめぐって日本政治が激しい分断を経験し、かつて政権を担った野党が分裂するというように、日本政治を取り巻く環境が大きく様変わりしていました。

 それはいわば、55年体制の「カムバック」でした。日本政治が安保政策、経済政策、社会政策という三つの重要な領域を横断した二大政党の分断を見つけられず、自民党と最大野党との対立軸が、安保政策と憲法における分断に回帰したからです。

 そして、他の野党が掲げる経済政策や社会政策におけるそれぞれに独自性のある主張は、日本政治にもはやダイナミズムをもたらしていない。「変革を望む勢力」という安倍政権の設(しつら)えも、それとともに段々と変化してきました。憲法改正はいまだ果たせず、民主党の分裂や日本維新の会の弱体化とともに、道州制の導入などの地方分権を巡る機運も弱まっており、むしろ「安定」と「王道」こそが安倍政権の特長となっているからです。

2015年9月19日未明、安全保障関連法成立後に記者の質問に答える安倍晋三首相(鈴木健児撮影)
2015年9月19日未明、
安全保障関連法成立後に
記者の質問に答える安倍晋三首相(鈴木健児撮影)
 野党がまとまれない最大の理由はおそらく人間関係ですが、野党が分裂した理由は「憲法」と「安保」という論点が際立ってしまったからでしょう。そして、安倍政権はそうした分断線が主要な対立軸となることで大きく利益を享(う)ける側にいます。日本人の多数派は、日米同盟や憲法について意見に濃淡はあるものの、政権としては「安保現実派」を望むからです。

 安倍政権は安保現実派です。安保法制を通じて日米同盟を維持・強化する一方で、「専守防衛」という言葉も堅持し、その中で防衛力を広げていっています。日米同盟を基軸とし続けることで、オールドな右翼が望んだ対米自立は捨て、その代わり米軍との協働を高めながらお金を節約する。

 中国の目覚ましい軍拡と対外拡張主義、北朝鮮の核保有に加えて、米国の内向き化傾向を考えに入れると、もはや吉田茂の軽武装路線を維持できないであろうことは明らかです。しかし、その中でさえ、国際情勢に鑑みれば日本はもっと軍拡していてもおかしくないところ、防衛費を節約しています。