坂場三男(日本戦略研究フォーラム顧問、元外交官) 

 安倍総理の在任期間が、戦後はもとより、戦前を加えた日本憲政史上でも歴代最長となる可能性がある。平成の30年間を振り返って、短期政権に慣れた国民一般の目からすれば信じがたいほどの長期政権である。しかも、驚くべきは、この間の内閣支持率が一貫して高いレベルにあり、ごく一時期を除いて常に不支持率を上回っていることである。

 民主党時代を含めて内閣支持率というものは総理在任1年もしないうちに下落するというのが常識であったから、安倍政権について単に在任期間が長いというだけでなく、その間の内閣支持率がおおむね高いレベルを維持し続けていることに驚嘆せざるを得ない。これはなぜなのか。

 私は元外交官であり国内政治の専門家ではないので安倍政権長期化の理由、背景を総括的に解説することはできない。一般に言われていることは、「アベノミクス」という経済財政政策が長期デフレに苦しむ日本経済に再生の可能性を示し、国民に対して明るい未来展望を切り開くことに成功したこと、その一方で3年3カ月余にわたる民主党政権3代の失政に多くの国民が失望し、野党として自民党に取って代わり得る存在と見られていないこと、の2点のようである。

 もちろん、自民党内に安倍総理の後継たり得る有力な政治家が見えてこないという事情もあるが、安倍内閣への支持率が相対的に高い以上、総理に退任いただくべき事由はないので、後継不在の問題は安倍政権長期化の主たる理由にはならない。

 国民の多くが安倍政権を支持し続ける理由の一つに総理の外交手腕に対する高い信頼があるように思う。日本外交の柱は何といっても日米関係の安定・強化であるが、安倍総理はオバマ大統領、トランプ大統領という全く異質な米国指導者二人とそれぞれ良好な関係を構築するという驚くべき対人能力を発揮した。

 しかも相互の信頼関係のレベルも共に極めて高く、日本の歴代総理と比べても傑出した外交成果であると評価されなければならない。これは安倍総理の人柄もさることながら、何よりも、東アジアをはじめとする世界情勢全般に対する認識を共有し、外交・安全保障戦略をおおむね分かち合える関係を構築できたからに他ならない。その第一が安保法制の整備だったと私は考える。
カナダでのG7サミットでドナルド・トランプ米大統領(右端)に向かい身を乗り出すドイツのアンゲラ・メルケル首相(中央左)(ドイツ政府提供、AP=共同)
カナダでのG7サミットでドナルド・トランプ米大統領(右端)に向かい身を乗り出すドイツのメルケル首相(中央左)=2018年6月9日(ドイツ政府提供、AP=共同)
 それでは、中国や朝鮮半島の問題についてはどうか。過去10年ほどの地域情勢を特徴づけるものは中国の超大国化と覇権主義的な対外政策、そして北朝鮮の核・ミサイルの開発である。これらはいずれも短期的な問題ではなく、中長期にわたって日本を取り巻く安全環境の桎梏(しっこく=手かせ足かせ)となるものであり、小手先の外交対応は意味をなさない。

 この点で日本の政治指導者には確固たる外交理念を打ち出すことが求められるが、安倍総理には多くの国民を納得させるだけの信念があり、このことも政権の長期化が支持される理由になっているのではないか。

 習近平国家主席にしろ金正恩労働党委員長にしろ一筋縄ではいかない人物であり、しかも長期にわたって指導者の地位にとどまることが確実である以上、日本の総理にコロコロと代わられては困るのである。韓国の文在寅大統領についてはいまだ在任2年に満たず、安倍総理からすれば「新参の政治家」であって余裕をもって対応できる。韓国側がドタバタすればするほど、日本側のどっしりとした腰の据え方が光ることになる。短期政権にはない安定感が際立ち、国民の支持を得ることにもつながっている。