もう一つ、安倍外交の特徴は環太平洋連携協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)といった広域自由貿易圏の構築に積極的なことである。これは「自由で開かれたインド太平洋戦略」と相まってアジア大洋州各国の対日信頼を醸成することに寄与している。

 特に、インドと東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は日本との関係を重視しており、安倍総理への信頼も厚い。広域自由貿易圏の構築は「アベノミクス」の柱の一つだが、それと同じくらい関係各国の経済発展にも寄与する。長期政権でなければこうした外交は展開できない。

 先進7カ国(G7)の中で安倍総理の在任期間はドイツのメルケル首相に次いで長い。そのメルケル首相も昨年末にキリスト教民主同盟の党首を辞任し、首相としての在任期間も最長で2021年9月までの現任期をもって終了することが確実である。

 2005年11月にドイツ首相に就任して以来13年が過ぎ、「ヨーロッパの顔」としての彼女の権威にも陰りが見え始め、「メルケル時代」の終焉(しゅうえん)が近いことを感じさせる。メルケル首相の強みは堅実な経済運営と中道の左右両派を取り込んだ政治の安定だった。

 しかし、2015年からの難民・移民の大量流入に寛容な政策をとったことが国民の反発を招き、拠って立つ支持基盤であるキリスト教保守層も離反・弱体化して、2017年の連邦議会選挙で敗北、昨年秋には2つの有力州における議会選挙に連続して大敗したことで与党党首の座から降りざるを得なくなった。

 確かに、難民問題は選挙敗北の直接の引き金ではあったが、もう少し長い政治潮流の中で見れば、キリスト教保守層という従来の支持基盤が崩れたことと、世論が右派ナショナリズムと左派ポピュリズムに分裂していく中で国民の多くがキリスト教民主同盟の中道路線に飽き足らないものを感じ始めていたという事情がある。

 このことは日本の与党、特に自民党にとって教訓に満ちている。自民党にとっては長いこと農協を軸とした農業従事者が支持基盤とされたが、今や状況は大きく変貌しているし、国民世論も右に傾いて中道を志向する空気ではなくなっている。ドイツと違って安倍政権が安定を維持している背景には安倍総理個人、そして自民党が日本国内におけるこうした政治潮流の変化をしっかりと読み切り、適切に政権運営をしているという事情があるのではないか。
首脳会談を前にドイツ・メルケル首相(左)と握手を交わす安倍晋三首相=2019年2月4日、首相官邸(春名中撮影)
首脳会談を前にドイツ・メルケル首相(左)と握手を交わす安倍晋三首相=2019年2月4日、首相官邸(春名中撮影)
 今、トランプ政権の登場と「アメリカ第一主義」が国際政治経済に大きな影響を及ぼし、米国と欧州の対立が深まる中で、安倍総理の存在は両者をつなぎとめる鎹(かすがい)になっている。G7の会合でも決裂しかかる議論の流れを押しとどめ協調と連帯を何とか維持する上での安倍総理の役割はますます大きい。

 中国が超大国化し強権的な対外政策を展開する中でアジア諸国の多くが安倍総理にバランサーとしての役割を期待している。国民は内政面だけでなく対外関係においても安倍総理の存在・役割が大きいことを感じており、これが政権の長期化を支えるもう一つの重要な要因になっているように思われる。