今回の自衛隊ポスターの「下着か、ズボンか」という議論も、『風の谷のナウシカ』の「裸か、タイツか」の議論と本質的には同じであろう。にもかかわらず、ナウシカが「当然、タイツ」であり、一方で自衛隊ポスターが「下着に見える」として批判されてしまう違いはどこにあるのか。偏見と先入観であるとすれば、制作母体によって扱いが変わるダブルスタンダードであり、不謹慎狩りの亜流でしかない。

 それがもし、自衛隊批判を盛り上げるための「自衛隊=不謹慎」という印象操作のためのミスリードであるとすれば、ポップカルチャーを踏み台にしたイデオロギー論争に他ならず、日本を代表するポップカルチャーである萌えキャラ文化への無理解を通り越した「冒瀆(ぼうとく)」でもある。言うまでもないが、自衛隊以外にも、美少年・美少女アニメや萌えキャラを利用した広報などはいくらでもある。(コンテンツの扱われ方については、拙著『パクリの技法』もご参考ください)

 牟田氏らに象徴される前述の指摘は、現状の若者文化への乏しい理解と、絶えて久しいステレオタイプなオタクイメージの中で、「萌えキャラ=美少女キャラ=性的イメージ」をつなげている。これは、日本のポップカルチャーを貶める非常に危険な理解と感性だ。「美人は性格が悪い」という偏見と何ら変わらない。

 実際の自衛隊ポスターを見る限り、描かれているのは、よくある、どこにでもある「萌えキャラ」でしかない。むしろ、近年の流行を踏まえれば清楚(せいそ)で地味なくらいだ。少なくとも筆者にはポスターから「性的なメッセージを含んだ幼い女の子」が強調された印象を感じることはできない。

 そもそもアニメ調の萌えキャラを好むのは男性だけではない。若い女性層も男性以上に好み、消費している。同人活動などの現場で萌えキャラ文化をけん引しているのは、女性作家や女性ファンたちである。萌えキャラの受容対象として20世紀末型のステレオタイプな「オタク像」を一般化させた認識は偏見でしかないのだ。

 むろん「自衛隊のような組織は、若者に迎合したポップなデザインは利用せず、地味でも堅い印象のものを起用すべき」という主張はあり得るし、そこから撤去やデザイン変更の議論が起きることもあるだろう。そういった議論が起きることには筆者も異論はない。
※写真はイメージです(GettyImages)
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 しかしながら、自衛隊が広報に起用したアニメキャラクターの中に、設定外の「下着」を見つけ出し、「セクハラである」「児童ポルノである」という批判を展開し、撤去にまで至らしめる今回のケースはそれと大きく異なる。表現の是非、ワイセツか否か、といったものとは違う次元からのアプローチであり、これはコトの本質や論点を大きくゆがませる。

 もちろん、自衛隊に限らず、税金を利用している以上、度を過ぎた表現は許されない。しかし、今回のケースが、ポスター撤去にまで至らしめるまでの「度を過ぎた表現」なのか、についても改めて考えてみてほしい。