2019年03月16日 11:18 公開

ニュージーランド・クライストチャーチで多数が死傷したモスク(イスラム教礼拝所)銃撃事件の主犯として逮捕・訴追された男が16日朝、クライストチャーチ地裁に出廷した。死傷者の数は17日までに、死者50人、負傷者50人に達したほか、2人が重体という。

オーストラリア国籍のブレントン・タラント容疑者(28)は、留置所の白いシャツを着て手錠をして法廷に立った。発言せず、罪状認否をしないまま勾留が決まった。4月5日に再出廷する。容疑者は今のところ、殺人容疑1件で訴追されているが、今後さらに容疑は増える見通し。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は16日に記者会見し、タラント容疑者が銃砲所持免許と共に銃を5丁所持していたと説明し、「この国の銃規制法は変わる」と規制強化の方針を示した。デイヴィッド・パーカー司法長官は、政府として半自動小銃の禁止を検討すると述べた。

首相によると、使用された銃は改造されていたもようで、容疑者の車両には大量の武器があったため、容疑者は「攻撃をさらに続けるつもりだったと推測できる」という。

他に2人が勾留されている。事件当日には計4人が拘束されたが、その内1人は無関係と判断された。勾留されている3人はいずれも、犯罪歴がない。

死亡した49人の1人はダウード・ナビさん(71)だと、遺族が明らかにした。ナビさんは1980年代後半にアフガニスタンからニュージーランドに移住したという。

息子のオマールさんはAFP通信に対し、父親はニュージーランドを「まるで楽園」と呼んでいたと話した。

他の犠牲者の身元はまだ公表されていない。

銃撃事件では計48人が負傷した。中には、2歳と13歳の男の子も含まれる。

クライストチャーチ病院のグレッグ・ロバートソン外科部長は、集中治療室で手当てを受けている負傷者のうち11人が重体だと明らかにした。

バングラデシュ、インド、インドネシアの各政府はいずれも、自国民が事件で死亡したほか、行方不明になっていると発表した。

クライストチャーチのリアン・ダルジール市長は16日、事件を「吐き気のする」「テロ行為」と呼び、被害者との連帯を強調した。

「私たちは新しくこの街に来た人たちを歓迎しました。この人たちは友人で、隣人です」、「ひとつになって支援したい」と市長は記者団に話した。

市役所など行政庁舎では「当面」、旗を追悼の半旗で掲げる予定という。

クライストチャーチ市内では厳戒態勢が続き、ニュージーランド全土のモスクは閉鎖している。

最新国勢調査によると、ニュージーランドの人口425万人のうち、イスラム教徒は1.1%を占める。ニュージーランドは1990年代以降、様々な紛争地から難民を受け入れるようになり、イスラム教徒の数が急増した。


事件の推移

事件の最初の通報は15日午後1時40分(日本時間午前9時40分)ごろ、クライストチャーチ中心部にあるアルヌール・モスクで金曜の礼拝中に銃撃があったというものだった。

銃撃犯が玄関に乗りつけ、自分を出迎えた人を射殺して中に入り、約5分間にわたりモスク内の信者たちに発砲を続けたという。

銃撃犯は頭につけたカメラで撮影した動画をライブ配信し、自分はブレントン・タラントだと名乗っていた。映像では男が、相手が男性か女性か子供かを問わず、無差別に撃ち続ける様子が映っている。

窓から逃げ出して助かったというモロッコ出身のヌール・タヴィスさんは、地元紙ニュージーランド・ヘラルドに対して、「みんな走っていて、いきなり次々と倒れ始めた」と話した。誰かが窓を割るのを見て「自分もそうした(中略)そこから逃げるのが一番安全だった」とも述べた。

タヴィスさんの友人の妻は死亡したという。

「銃声を聞いて彼女は夫の無事を確かめに行き、そこで撃たれた。夫は無事だった」

アルヌール・モスクを襲った後、銃撃犯は約5キロ離れた近郊リンウッドのモスクへ車で移動し、そこでも銃撃を続けたとされる。

目撃者の1人によると、信者の1人が男から銃を奪い、男は外で待機していた車両に走って逃げたという。

警察はタラント容疑者を含め15日の内に4人を拘束したが、逮捕の状況は明らかになっていない。

警察によると、2カ所のモスクで複数の銃器を押収したほか、1人の容疑者所有の車両から複数の即席爆発装置を発見したという。

銃撃開始前には、「ブレントン・タラント」を名乗るオーストラリア人の白人男性が、攻撃を2年前から計画していたとする長文の犯行声明をフェイスブックに掲載していた。声明は激しい反イスラム感情や白人至上主義、移民排斥感情をむきだしにしていた。

男は、2017年に欧州を訪れて目にした状況に怒りを覚えたため、今回の銃撃を計画し始めたと書いている。犯行声明の題名は「The Great Replacement(偉大なる置き換え)」で、フランス発のこの表現は欧州で移民排斥過激主義者の合言葉になっている。こうした表現を使う排斥主義者たちの主張は主に、「欧州人」とその文化が移民流入で「置き換え」られており、各国の移民受け入れ政策は「白人虐殺」だというもので、イスラム教徒が主な恐怖や排斥の対象になっている。

犯行声明の中で男は、イスラム過激勢力「イスラム国」の支持者がスウェーデンで行ったトラック攻撃や、フランスで穏健派のエマニュエル・マクロン氏が大統領に当選したこと、フランスの人種多様性などを強く非難している。

ニュージーランド・ヘラルドによると、犯行の10分前までにアーダーン首相を含む70人にこの文書が送りつけられていたという。

犯人が被害者に発砲しながら生中継したらしい動画も、フェイスブックに掲載された。フェイスブックはこの動画を削除した。

容疑者の車内で再生されている音楽は、1992~95年のボスニア戦争でセルビア国家主義の民兵組織が行進曲として使ったもので、民族虐殺や戦争犯罪で有罪となったラドヴァン・カラジッチ受刑者を称賛している。

容疑者のものと思われる銃には、イスラム教徒や移民の殺害で有罪になった男たちの名前が書かれていた。そのほか、イギリスで起きた重大な児童虐待事件の場所を指す「ロザーサムのために」という言葉や、欧州諸国とオスマントルコ帝国の歴史上の戦いを意味する言葉などが書かれていた。

ツイッターも同じ人物のものと見られるアカウントを凍結した。

首相は銃規制強化を約束

主犯として逮捕されたタラント容疑者について、アーダーン首相は記者団に「世界中を旅して回り、ニュージーランドにも時々滞在していた」と話した。

「長期滞在者とは言えない」と首相は述べたが、容疑者の名前は正式に特定しなかった。

治安当局が極右過激主義者の捜査を強化していたものの、「殺人容疑で訴追された人物は、過激主義の要注意人物として情報当局は警察の捜査対象になっていなかった」と首相は述べた。

アーダーン首相はさらに、「容疑者は銃砲所持免許を持っていた。これは2017年11月に取得したものと聞いている」と説明し、銃規制法の強化を約束した。

ニュージーランドでは、16歳から合法的に銃を所持できる。軍隊式の半自動小銃の場合は18歳から所持できる。

銃の所持には必ず免許が必要だが、ほとんどの銃器は個別に登録する必要がない。ニュージーランドはこの点で異例だ。

免許取得には、犯罪歴や病歴のチェックに合格する必要がある。精神病や家庭内暴力も審査対象になる。

いったん免許を取得すると、購入できる銃器の数には制限がない。

「テロ攻撃としか呼びようがない」

首相は15日夜の記者会見で、事件は「テロ攻撃としか呼びようがない」と述べ、銃撃犯を「暴力的な過激右派テロリスト」と呼んだ。さらにその上で、「このような極端で前代未聞の暴力行為はニュージーランドにあってはならない」と非難した。

アーダーン首相は、「クライストチャーチは、被害者の人たちの地元でした。多くの人にとっては、生まれた場所ではなかったかもしれない。多くの人は、わざわざニュージーランドを選んだのです。積極的にここにやってきて、ここの一員になった。多くの人はここが安全だから、この地に来たのです。自分の文化や宗教を自由に実践できる場所なので」と説明した。

首相はさらに、銃撃犯がニュージーランドを選んだのは、「ここが憎悪や分断にとって安全な場所だからではない」と強調。「私たちが選ばれたのは、まさに私たちが憎悪や分断を受け入れないからです」と述べ、ニュージーランドが攻撃されたのは「多様性と優しさと思いやり」のためで、「私たちの価値観を共有する人にとっての安住の地、避難先を必要とする人にとっての避難場所だからです。私たちのこういう価値観を、揺らがせることはできませんし、私たちの価値観が揺らぐことはありません。それは保証します」と力説した。

(英語記事 Christchurch shootings: Attack suspect Brenton Tarrant appears in court