2019年03月19日 12:46 公開

イギリスのジョン・バーコウ下院議長は18日、テリーザ・メイ首相が推進する欧州連合(EU)離脱協定に変更点がない限り、これを3度目の採決にかけることを認められないと発表した。ブレグジット(イギリスのEU離脱)が今月29日に迫る中、閣僚からはこの異例の決定で「憲政上の危機」が迫ると懸念の声が出ている。

英下院(定数650)は1月、メイ首相がEUと取りまとめた離脱協定を否決した。メイ首相はEUとの再交渉後の3月12日にあらためて協定を採決にかけたが、再び否決された経緯がある。

しかしバーコウ議長は今回、1604年に制定された、一度否決された動議は同じ会期内に再度採決にかけることはできないという慣習を引用。議員が12日に否決した協定と「実質的に同じ」ものを、3度目の「意味ある投票」にかけることはできないとした。

また、12日に採決した協定は最初のものとは実質的に異なるものだったため「規則に則っていた」が、今後、協定を採決にかけるには議長の「試験」を通る必要があると述べた。

イギリスは法的にはなお、3月29日にEUを離脱する予定だ。

<関連記事>

BBCのローラ・クンスバーグ政治編集長は、バーコウ議長の決定がブレグジットを阻止するわけではないものの、イギリス政府が今週中に議会で3度目の採決を行うことは「非常に難しい」状況となったと説明した。

下院は14日にブレグジット延期をEUに要請する案を可決しており、メイ首相は20日までに協定が承認されれば、翌21日のEU首脳会議で短期間の離脱延期を要請するとしていた。

しかしクンスバーグ編集長は、この見通しも後退し、もはや長期間の離脱延期となる可能性が高まったと指摘している。

「イギリスはメイ首相が想定していたブレグジットよりも軟着陸の、EUともっと近い関係のものになると、ほとんどの議会関係者は結論するはずだ」と、クンスバーグ編集長は述べた。

「政府はなお、どういう形かは不透明だが、この複雑な状況を迂回(うかい)する方法があると信じている。それでもなお、政府高官の言葉を借りれば、今夜の決定で首相官邸の置かれている状況はさらに複雑になった」

首相官邸の報道官は、政府はバーコウ議長の決定について事前に内容を知らされておらず、「そんなことをするつもりなのも知らなかった」と述べ、この決定が突然のものだったとしている。

その後、議長の決定を確認し、「正式な検討」が必要だと述べた。

イギリスの下院議長は下院の最高権力者で、審議の進行や議員の発言の機会を管理するほか、議会の審議内容について決定権を持つ

議長決定への反応は?

今回の決定をめぐっては、メイ首相の離脱協定を支持してきた閣僚や議員からは怒りの声が挙がっている。

ロバート・バックランド法務次官はイギリスが「立憲の危機」にあると警告し、議員が承認できるような「新しい解決策」を見出す責任がEUにあると指摘した。

また、現在の会期を早期終了させるなど「迂回策」もあると示唆している。その場合、総選挙を前倒しする可能性もある。

一方、離脱協定に反対していた議員はこの決定を歓迎した。

保守党のオーウェン・パターソン議員はこの決定は「議論の流れを変える」もので、EU首脳会談を前に「精神を集中」させてくれると語った。欧州問題委員会のビル・キャッシュ委員長も、3度目の採決には協定に「実質的な変更」が必要なのは「とても理に適っている」と話した。

しかしスコットランド国民党のイアン・ブラックフォード議員は、メイ首相はこの「立憲の危機」に対して「早急に」野党党首を集めて会合を開くべきだと述べている。

ブレグジットは今どうなっている?

下院はこれまでに2度、離脱協定を否決しているほか、EUにEU基本条約(リスボン条約)第50条に定められている離脱交渉期間の延長を求めることを決めた。

離脱延期にはEU全27カ国の合意を得る必要がある。EU側が合意した場合、イギリス政府は上下院に変更を求めることになる。

クワジ・クワーテンEU離脱次官によると、メイ首相は今後、欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長(大統領に相当)にブレグジットの延長を求める書簡を送る。

しかし延長期間は「意味ある投票が行われ、協定が承認されるかどうかによる」という。

「もし協定が承認されれば(中略)、短期間の延長を要請することになる」

「しかしどんな理由であれ投票が行われない、あるいは認められない、協定が否決されるということになれば、EUには長期間の延長を要請することになる。それはEUとイギリス政府が決めることだ」

これに対し最大野党・労働党のマシュー・ペニークック影のEU離脱次官は、50条を延長しなければならない状況は「現政権の失敗の現われ」だと指摘した。

政府は現在、保守党の離脱派議員およびメイ首相と閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)に協定を支持するよう働きかけている

離脱派議員とDUPはかねて、アイルランドとの国境をめぐる「バックストップ」条項に懸念を示している。DUPはこれまでも協定に反対票を投じており、バックストップへの法的助言やブレグジットの方法について今以上の「明確性」を求めている。


<解説> EU側の視点――アダム・フレミングBBCブリュッセル特派員

メイ首相は21日のEUサミットに明確なブレグジット計画を持って来る。これ以上の交渉は絶対に必要ない――。これがEUが公の立場として待っている状況だ。

しかしEU高官たちはその裏で、イギリス政府が議会で何らかの魔法を使う、あるいは北アイルランド議会が将来担う役割を確約するといったイギリスにだけ適用される追加条項を見つけるといった方法で、自力でこの苦境を脱せるか疑問に思っている。

例えば21日にイギリスとEUがブレグジットの延期に合意し、それを3度目の採決に必要な変更点だ主張することはできるだろうか?

しかしその結果どうなるかと言えば、エリザベス女王が議会を閉じてまた開くだけだとなったら、EU側の反応は見物だ。


(英語記事 Third Brexit vote must be different - Speaker