「大勲位」中曽根康弘・元首相は5月27日に100歳の誕生日を迎えた。背筋をピンと伸ばし、いまなお、決して椅子の背もたれに体を預けようとはしない。

 「首相としても自民党総裁としても中曽根総理に学びたい」

 安倍晋三首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、憲法改正、規制緩和、日米同盟の再構築など、中曽根氏の背中を追いかけてきた。いま、安倍氏は仰ぎ見る存在だった中曽根氏をすでに在職期間で追い抜いたが、国民の目に映る安倍氏の姿は“大宰相”とはほど遠い。100歳を迎えた中曽根大勲位は日本の政治の現状について、こうコメントを発表した。

 〈時代の抱える問題と課題に対し政治の責任を自覚し、勇断を以って確りと役割を果たしていくべきだ〉

 その言葉を誰に向けたか、中曽根氏は名指ししなかった。

「ロン・ヤス」が最優先ではなかった

 史上初の米朝首脳会談を控え、安倍首相は6月7日に緊急訪米してトランプ大統領との首脳会談に臨む。「日米同盟の強化」を公約に掲げて首相に返り咲いた安倍氏は、民主党政権時代に悪化した対米関係の改善に取り組み、とくにトランプ大統領とは「強固なシンゾー・ドナルド関係」を確立した。

 なにしろ、安倍首相はトランプ大統領がやることなすこと全部ウェルカム。米朝首脳会談開催が公表されるといち早く歓迎を表明したかと思うと、会談中止を言い出した時も即座に、「大統領の決断を支持する」と賛成。再び会談開催に傾くと「トランプ氏を引き込んで圧力をかけ続けてきた結果だ」(菅義偉・官房長官)と我田引水を交えて賛同した。こんななりふり構わぬトランプ追従は、他国の首脳には真似できそうにない。

 安倍首相がモデルにしているのが中曽根外交だ。1982年、首相に就任した中曽根氏は「日本は不沈空母」という発言で悪化していた日米関係を修復し、ロナルド・レーガン大統領と「ロン」「ヤス」とファーストネームで呼び合う関係を築いた。

 当時、父の安倍晋太郎外相の秘書官を務めていた若き安倍氏は「首脳外交には個人的な信頼関係が重要だと学んだ」と述懐している。しかし、木を見て森を見なかったようだ。中曽根氏は昨年1月、在任時の外交記録公開にあたってこうコメントを出した。

 〈首脳外交では常にアジアの一員であることを心掛けた。サミットの際にアジアの各国首脳と連絡を取り意見や要望を聴き、その上でサミットの場に臨んだ。(中略)米国追随型といわれたそれまでの日本外交を脱し、アジアを背景に自主外交路線を打ち出すことは、アジアの国々や国際社会から信頼を得る上でも非常に重要な視点であったと思う〉
2017年5月、「中曽根康弘先生の白寿を祝う会」で中曽根康弘元首相に挨拶する安倍晋三首相(宮川浩和撮影)
2017年5月、「中曽根康弘先生の白寿を祝う会」で中曽根康弘元首相に挨拶する安倍晋三首相(宮川浩和撮影)
 事実、中曽根氏は日米関係を重視する一方、サミットでは「哲人宰相」と呼ばれたフランスのミッテラン大統領の見識を高く評価して個人的親交を結び、「鉄の女」サッチャー英首相やコール西ドイツ首相とも本音で語り合う信頼関係を築いたことで知られる。

 北朝鮮との交渉も拉致問題解決もトランプ大統領に頼り切りの安倍外交にそうした心構えと近隣諸国への周到な根回しはみられない。

 亀井静香氏や石原慎太郎氏ら“応援団”からも「トランプのポチみたいな扱いをされちゃいかんぞ」と念を押される始末なのだ。これでは“トランプがコケたらシンゾーもコケる”と他国から危うく見られても仕方ない。