上久保誠人(立命館大政策科学部教授)

 第2次安倍晋三政権が発足してから約6年3カ月が過ぎた。その間、政権運営の柱となってきた「安倍外交」を評価するならば「おおむね適切」ということになる。

 安倍外交といえば、米国のトランプ大統領やロシアのプーチン大統領など、世界の首脳との「強固な個人的信頼関係」を称えるものや、世界の首脳の中でベテランの域に達した安倍首相が頼りにされているということなどが、巷(ちまた)で言われてきた。ただし、筆者はそのような「高評価」から一線を画すものである。

 特に、安倍首相の「個人的な資質」に対する「幻想」が広がっていることには、違和感を持たざるを得ない。2007年9月、第1次安倍政権が発足365日目に崩壊した時のことを思い出してほしい。あのとき、安倍首相は「空気が読めない男」と、政界内やメディアのみならず、街の女子高生にまで言われていた。

 テレビカメラを前に記者会見すれば、「ワンフレーズ」でズバリ指摘する小泉純一郎前首相(当時)とは対照的に、長々と説明するが要領を得ないコメントで批判された。国会でも、野党に追及されると感情的な答弁になった。

 同じ人が、約5年を経て首相に復帰した時に、世界の首脳という「悪党」たちを相手に、丁々発止の駆け引きをし、国際社会を主導する「スーパーマン」に変貌するということがあり得るのだろうか。そんなことは「幻想」にすぎないと思う。

 個人的には、安倍首相は約11年前に退陣した時と何も変わっていないと思う。安倍外交がおおむね適切だったのは、世界の首脳との信頼関係があるからではない。世界の首脳と会い、相手に強く主張することはない一方で、相手の望むこと以上のものを提供し、会談後に日本のメディアを集めて記者会見で大々的に成果を誇る「やったふり外交」がハマってきたからだ。

 例えば、トランプ氏の「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」によって、ロシアや中国、欧州連合(EU)、イランなどさまざまな国との摩擦が高まる中、「ドナルド・シンゾー」の個人的な信頼の構築によって、「日米関係は過去最高の良好さ」を保ってきたとされる。安倍首相は、他の首脳と違い、トランプ氏の別荘に招かれ、ゴルフに興じながら、サシで話をしてきたという。果ては、トランプ氏に頼まれて、大統領を「ノーベル平和賞」に推薦する文章まで書いたとまで言われている。
2019年2月、トランプ米大統領との電話会談を終え、記者団の取材に応じる安倍首相
2019年2月、トランプ米大統領との電話会談を終え、記者団の取材に応じる安倍首相
 トランプ氏が、安倍首相を「いい奴だ」と言っていることに嘘はないだろう。だがそれは、ドイツのメルケル首相やフランスのマクロン大統領が米国の保護貿易や移民政策などに正面から異を唱えるのと対照的に、安倍首相が「耳が痛いこと」をなにも言わないからではないだろうか。