落合道夫(東京近代研究所代表)

 新元号「令和(れいわ)」が発表された。これは万葉集が出典である。安倍晋三首相の解説によると、いろいろと慶ばしい意味を持っているという。あらゆる危機の中、ぜひ新しい天皇の下、良い時代になってほしいと願うばかりだ。

 「令和」と聞いて私は、祝賀の歌として1270年前の天平21年に大仏建立にあたって大伴家持が詠じた「すめらぎ(天皇の意)の御世栄えむと東なるみちのく山に金花さく」を想起した。

 しかし、同時に大東亜戦争後、敵に捕らわれ冤罪で処刑された坂本忠次郎中尉の詠んだ歌も忘れることはできない。「同胞(はらから)の犠牲(いけにえ)なればすめらぎの弥栄祈り我は散りゆく」。彼も歌心のある武人だった。

 こうした長大な時代の積み重ねにより現代の日本がある。新しい「令和」の御世は新天皇の下で今後、無数の記録が書き込まれていく。そして全国民にとって各自の唯一無二の歴史となる。このように理解すると元号制度が極めて人間的で文化的なものであることが分かるだろう。

 ところで新元号「令和」は、今上陛下のご譲位にあたり1カ月前に発表された。異例である。これは産業界の要請など政府にも事情があるのだろうが、伝統的権威は伝統によってのみ維持されるから天皇に関わる事柄は、すべて無条件で伝統に従うことが大原則だ。

 今回の異例のご譲位と改元はご高齢であることが挙げられるが、本来摂政を立てられればよいことであり、これは日本が先の大戦を踏まえた講和条約を結んだにもかかわらず、いまだに占領で破壊された民族の大切な伝統が回復されていないことを示している。
モニターに映し出された新元号「令和」の文字=2019年4月1日、東京都千代田区
モニターに映し出された新元号「令和」の文字=2019年4月1日、東京都千代田区
 したがって今回はやむを得ないとしても、なるべく早く「占領憲法」を改正し、次回からは伝統に戻すことが必要だ。これは政府だけでなくわれわれ国民の責務である。

 そもそも日本民族における元号制度の機能は歴史に期間を設定し「時代」の概念を作ることである。これにより、元号制度が日本人にとって文化的、そして政治的、社会的に重要なものになってくるのである。

 その一方で、元号反対論には誤解によるものと政治的な陰謀がある。誤解によるものは、暦は数えやすいようにキリスト歴一本にすべきという単純な意見である。しかし、これは短い人生を終える国民の歴史的感慨に配慮のない意見である。