2019年04月04日 15:46 公開

イヴェット・タン、BBCニュース

東南アジアのブルネイで3日、同性愛行為や不倫に対し、石打ちによる死刑などを科す厳格な法律が施行された。厳刑が実際に執行されるかについては、異論もある。

シャリア(イスラム法)に基づく新刑法ではこのほか、窃盗に対して手足を切断する罰則を定めており、国際的な非難を浴びている。

ブルネイの同性愛コミュニティーは、この「中世的な刑罰」にショックと恐怖を覚えていると話した。

ブルネイ国民で同性愛者の男性はBBCに対し、「朝になって目覚めたら突然、隣人や家族、道端で食べ物を売っている優しいお婆さんたちがみんな、自分を人間ではない、石を投げてもいい存在だと思っていることに気付いた」と語った。

AFP通信によると、ブルネイのハサナル・ボルキア国王兼首相は国民への演説で、新刑法については触れなかったものの、「私はこの国でイスラムの教えをさらに強めていきたい」と述べた。

ブルネイではすでに同性愛が違法とされており、最大10年の禁錮刑が科される。

人口42万人のブルネイで、イスラム教徒は全体の3分の2を占める。ブルネイは死刑制度を維持しているが、1957年以降、執行していない。

新刑法の内容は?

新法の大半はムスリムに適用されるもので、これには思春期に入った未成年も含まれる。また、刑法の一部はムスリムでない国民にも適用される。

新たな刑法では、本人が自白した場合か複数の目撃者がいた場合に、以下の行為で刑罰が科される。

  • レイプ、不倫、肛門性交、強盗、預言者ムハンマドを侮辱・中傷する行為は、最も重い場合で死刑となる
  • 女性同士の性行為については杖打ち40回と、最大10年の禁錮刑が科される
  • 窃盗罪を犯した場合、手足を切断する刑罰が科される
  • 18歳以下のムスリムに「イスラム以外の宗教の教えを受け入れるよう説得、命令、推奨」した場合、罰金か禁錮刑となる

また、思春期に入る前に有罪となった場合はむち打ち刑を受ける。

国際的なボイコット運動も

ボルキア国王はブルネイ投資局を束ねているほか、ロンドンや米ビヴァリーヒルズなどで高級ホテルを運営するドーチェスター・コレクションを所有している。

ブルネイの王族は大きな個人資産を保有しており、国民は多額の補助金を受け取れるほか、税金が課されていない。

米俳優ジョージ・クルーニー氏をはじめとする著名人は新刑法の施行を受け、ドーチェスター・コレクション傘下の高級ホテルをボイコットする運動を始めた。

米テレビ司会者のエレン・デジェネレス氏は2日、ツイッターにホテルの一覧を掲載し、「ブルネイではあすから、同性愛者に石打ちによる死刑を課します。私たちは今、何かしなくてはならない。ブルネイ国王が所有するこのホテルをボイコットしてください。声を上げてください。色んな人に伝えてください。立ち上がってください」と呼びかけた。

https://twitter.com/TheEllenShow/status/1113177461276082177


これに対しドーチェスター・コレクションは、「わが社はいかなる差別も許容しない」と声明を発表した。

「ドーチェスター・コレクションでは、運営のあらゆる側面で平等と互いへの尊重、誠実に重きを置いています。また、顧客と従業員の人間的・文化的多様性の価値を強く認めています」

一方で英アバディーン大学は、ボルキア国王に贈った名誉学位を再審議していることを明らかにした。

2014年にシャリア法を施行

ブルネイは2014年、国際的な批判の中でシャリア法を導入し、イングランドのコモン・ローに基づく従来の法制度と並行して施行されている。

その際にボルキア国王は、シャリア法に基づく新たな刑法を向こう数年かけて段階的に導入していくと述べていた。

その第1段階は2014年で、禁錮刑や罰金が課される犯罪に適用された。その後には手足切断や投石を含む2段階の刑罰の導入が計画されていたが、発効は延期されていた。

しかし3月30日、ブルネイ政府はウェブサイト上の声明で、4月3日からシャリア方の刑法を全面的に施行すると発表した。

それ以降、世界各国で怒りの声と、決定を取り下げるよう求める声が上がっている。

人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルでブルネイの調査を行っているレイチェル・チョア=ハワード氏は「これらの虐待的な罰則は、5年前に最初に協議されたときにも広く非難を受けた」と説明した。

「ブルネイの刑法は人権を侵害するさまざまな罰則を含む、深刻な欠陥のある法制度だといえる」

国連も同様に、新刑法を「残酷で非人道的で、人の尊厳を傷つけるもの」だと批判し、人権擁護の観点で「深刻な後退」だと述べた。

人権団体「国境なき人権」によると、イランやソマリア、スーダンなどでも石打ち刑が行われている。

権力維持が目的か

さまざまな理由が取りざたされているが、人権団体「ザ・ブルネイ・プロジェクト」の創始者マシュー・ウルフ氏は、刑法施行とブルネイの景気後退に関係があるかもしれないと指摘した。

ウルフ氏はBBCの取材で、「経済が衰退し、政情不安に陥る危険がある中で、政府が権力を維持するために行ったというのが一つの説だ」と話した。

「イスラム教国から今まで以上に投資を募ったり、観光客を呼び込んだりすることがブルネイの利益になることを考え合わせれば(中略)今回の新法施行が市場への一種のアピールだと見ることもできる」

ウルフ氏はさらに、ブルネイ政府は今回、国際社会の目を潜り抜けて刑法を施行できると期待していたのではと分析した。

「政府は2014年に第1段階を施行した際の国際的な大論争がほぼ、本当の意味で収まったことを確認し、それからこの法律を誰の目にも留まらないまま密かに施行したいと思っていたと思う」

「実際、刑法施行を政府が発表するまで、国際的な注目を浴びていなかった」

刑法の変更は昨年12月、法務長官のウェブサイトに掲載されたが、今年3月末まで大きく報じられなかった。昨年12月の時点では、政府は刑法変更を発表していない。

ブルネイ国内での反応は?

同性愛者のシャヒラン・S・シャフラニ・ムハンマドさん(40)は、すでにブルネイ国内で新刑法の影響が出ていると話す。

ブルネイを昨年離れたシャフラニさんは元公務員で、カナダで亡命を申請している。昨年にはフェイスブックで政府を批判し、治安妨害の罪で有罪となったという。

「ブルネイの同性愛コミュニティーは開かれたものではないが、同性愛者のデートアプリがリリースされた時には、みんなが密かに会えるようになった。しかし今では、誰もこのアプリを使わなくなってしまったそうだ」とシャフラニさんは語った。

「同性愛者を装った警察官に話しかけてしまうかもしれないと怖がっている。まだそうしたことは起こっていないが、新しい法律のせいでみんな怖がっている」

同性愛者ではないがイスラム教を放棄した別の男性(23)は、新刑法の施行を前に「恐怖と無力感」を感じたと話した。

匿名を希望したこの男性は、「私たち一般市民は、シャリア法の導入を止めるには無力だ」と語った。

「シャリア法の下では、私は背信の罪で死刑になるかもしれない」

一方で、同性愛者の男性は、この法律が実際に広く執行されることはないと期待していると話した。

「正直に言えば、政府はよく厳罰を科すと国民を脅してはったりをかけるので、そこまで怖くはない。それでも、珍しいとは言え、そういうことは起こりうるし、起きるはずだ」

実際に刑は執行されるのか

英シンクタンク「チャタムハウス(王立国際問題研究所)」のアジア・太平洋プログラムのビル・ヘイトン氏によると、ブルネイ国内では、この刑罰が実際に執行される可能性はほとんどないという意見が出ているという。

ヘイトン氏はBBCのラジオ番組で、「ブルネイの人たちは、そんなことが起こる可能性は本当に、本当に低いと話している」と説明した。

例えばこの法律では、肛門性交や不倫で罰せられるには、4人のムスリムの目撃者がいることが要件となっているという。

「法律は国王を信心深く見せるための方便で、実際には刑罰が執行されないよう、こうして配慮しているのだと言われている」

(英語記事 Brunei to punish gay sex with death